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評者◆凪一木
その71 誰が悪人なのか。
No.3472 ・ 2020年11月21日




■『七つの会議』という、『半沢直樹』で有名な池井戸潤原作の映画を観た。
 次々と入れ替わる敵の姿。味方が誰なのかもわからなくなる恐怖。オセロの裏表。実は善玉、だけど悪の手先、どんでん返しばかりが続く、裏切りの連続。サイコパスを目前にすると、悪は一人なのだが、嘘をつき、操作するために、人間不信が渦巻き、展開が秋の空の如くに時々刻々と入れ替わる。
 自分のためなら会社の犬でもスパイでも何でもやるサイコパスは別として、お前たちは、本気で闘う気持ちがあるのか。一緒に立ち上がるようなことを言っている一見権利意識の強いフェラーリや、お金については細かく煩くどこまでも損をしたくないマーシーや、漠然とした反権力を持っていて、やるときはやるという構えだけは一丁前でありながら、実際にはかつて何かに楯を突いた経験の一度もないキコリーノや、頭の回転は一定のスピードであるものの、身体や行動においては全く付いていけていない工ちゃん。彼らが、いったいどのくらい本気でともに運動とまではいかなくとも行動してくれるのか。
 おそらくは、たかが就業規則を私に続いて、便乗して、会社から頂く程度の、当たり前の要求さえ、今のところ(私が勧めているにもかかわらず)誰ひとりとして行動に起こしていない状況を考えると、またユニオンに誘っても、苦い笑顔(困ったような顔)を返すぐらいしかしないので、ほとんど期待は出来ない。むしろ反目(会社側)に回る可能性さえある。
 かつて、ビデオ問屋に勤務していたとき、上司の男に、とんでもない無様な茶番を見せられたことがある。明治大を卒業してリクルートに入社し、退社後当時勢いのあったレンタルビデオ業界に流れてきた男だ。いつまで経っても、その名の通りリクルートスーツ姿がやけに似合っていた。このリクルート野郎が、部下の私に、「棚ごとにジャンルの配置換えをしてほしい」と、ほとんど重要ではない入谷のビデオ店について命じてきたのだ。
 「今忙しいのに、あんな店に労力を掛けても無駄じゃないですか」「店のオヤジに、ちょっと借りがあるので、お願いしたい」
 結局一日がかりで配置替えをした。翌週の会議で社長から、「なんであんな店の配置換えを一日も掛けて、やったの? 無駄じゃないの。そう思わないか」。そう言ってリクルート野郎に話を振った。そうしたら、奴はこう言った。
 「僕もそう思います」
 「お前が命令してやったんじゃないのか」と言い返す気も起きず、リクルートを睨むに留めた。この社長と私とは、もともと喧嘩していた。またリクルートは、社長のお気に入りで、実際に気に入っていたかは別として、表向きは番犬のような役割を果たしていた。
 会議が終わって、外に出ていくと、後ろからリクルートが走って、追いかけてきた。誰にも見られない角度の廊下の端で、綺麗な形の土下座をしていた。
 「凪くん、すまない」。何かを言う気も失せたのだが、こういった光景は会社ではかなり見飽きている。
 私はしかし、こういう奴さえも巻き込んでいかなければ、最古透は倒せないと思っている。登場人物の小さな反抗が少しずつ積み重なっていくことが物語の解決に説得力をもたらすのは、映画を観てきた私にとって、常道なのだ。小さな積み重ね。最終的な答えはずっと先で、自分が生きている間には見ることなどできないかもしれない。
 同じく、このさなか、『ブラック校則』という映画を二度も観にいった。地道な一歩に価値を見出す内容が素晴らしかった。最強のラスボスをギャフンと言わせることがカタルシスみたいな、そんな「大文字の文化」妄想はどうでもよく、少しずつ変えていくことが大切だというラストが心に沁みた。
 会社に対する不満を毎日のように述べていても、「いざ」小さな戦いを始めるときには「乗って」こない奴がいる。肝心なときには、まるで会社の代弁者のようなことを言う。
 「そんなことでは根本的には変わらない」「すこし変わっただけでは意味がない」。そう言って、小さな抵抗一つすることなく、一か一〇〇か、白か黒かで、いつのまにか「何もしない」「動かない」方を選ぶ。威勢の良いことを言っていても、グレーゾーンに耐えられず、二つに一つの選択となってしまうのだ。会社を辞めるか、もしくは会社に「居る」となれば、どう見ても隷属ともしかいえない従い方しかできない。陰で虚勢を張るだけだ。
 何もしないで退職する前に、ユニオンに入って団体交渉の一つでもしてから辞めても遅くはないだろう。だが、「面倒くさい」とか「相手にしたくない」とか言って、結局は会社の狡い連中の思うがままだ。
 どんな会社も、小さい部分で悪いこと(法律違反・基準違反)をやってはいるが、隠すことのできる範囲内で、何とか隠してやっている。大企業や公企業ならば、ときどき膿を出してトカゲのしっぽ切りで、自殺その他の犠牲者が出て、それでも潰れることはない。しかし中小や零細企業であるならば、大量にでたらめなところ(私のいるT工業など)は、それをもう隠しきれずに、洩れ出てしまう状態で、そのしわ寄せが、たとえば私に来る。
 「安かろう悪かろう」は、結局一〇回に一回のアウト(ハズレ=お金の不払いなど)に連続して「当たる」者もいれば、一〇〇回やっても、ロシアンルーレットの当たらない者もいる。安いということはそういうことである。T工業は、保証人を一人も付けず(たいていの会社は入社の際、一人もしくは二人の保証人が必要)に入社でき、健康診断も宿直は年二回が義務なのに、一回も受けない責任者がいる現場で、私も毎年一回しか受けていない。
 高いところは、最低ラインを保障していて、それが価格にも反映し、組み込まれていて、「良い」現場を得ている。だから、さっさと辞めればいいという話になるのだが、私は少なくとも関わって、闘って、何事かを「変えて」出ていこうと思っている。
 K部長は、不誠実が服を着て歩いているようなチンピラで、キン肉マンが、額に「肉」と書いてあるように、この男の額には、「ウソ」と書かれている。知りうる立場にあって、なぜ第三者に、教えるのか。聞かれたくないことぐらい、当たり前であるし、それよりも、そういう行為をわざとなのか、自然になのか、やる理由がわからない。問題だ。こちらの住所その他を知られても、Kの立場なり役割を了承するのは、秘密を漏らさないという、暗黙の了解があるからであり、それを勝手に、了解もなく破るとはいったいどういう神経をしているのか。最古に筒抜けであった。
(建築物管理)







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