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評者◆休蔵
「正しく怖がる」ための大切な情報源
赤死病
ジャック・ロンドン著、辻井栄滋訳
No.3473 ・ 2020年11月28日




■新型コロナウイルスの感染はどこまで拡大するのだろうか。
 なんとなく、いろんなことが緩んできて、さまざまな「Go To」が展開され、それを享受している人たちが連日報道されている。実際のところ、「Go To」は正解なのか、それとも後日大いなる後悔に悩まされるのか、よくわからない。日々、新たな感染者数が発表されている。その律儀さと「Go To」の対比が空恐ろしい。
 そんななか、ジャック・ロンドンが認めた短編集を読む機会を得た。
 ジャック・ロンドンは1876年、サンフランシスコで生まれた。本書標題の「赤死病」は2073年のサンフランシスコが舞台。人類の大半は赤死病で絶命し、文明は崩壊している設定だ。
 わずかな人類は小規模なコミュニティを形成し、かろうじて生を繋いでいた。主人公は「文明を知る、ただ一人の生き残り」の老人。彼は孫たちに過去を話して聞かせる。いかに文明が発展して快適な生活を送っていたか、それがいかなる風に崩壊していき、野蛮な現状を迎えているかを。
 赤死病は、最初の兆候が表れてから1時間で死に至る恐ろしい病。病の兆候は皮膚が赤く色づく点である。死にざまについて、本書は一定せず、「人が死ぬと、体は見るみるうちに粉みじんになり、ばらばらに飛び散り、溶けてなくなってしまうみたいだった」(47頁)と回顧したかと思いきや、街中に死体が溢れる描写もある。
 そんなことは些末なことで、本書は文明の脆さを痛烈に描き出している。そして、野蛮への回帰の速さも。
 ジャック・ロンドンは文明の発展とともに交通網が整備され、人口過密となったことが病の拡散に繋がったことも描き出している。彼は1916年に没しているため、現時点と比較すると交通網も人口も全然なはず。にもかかわらずウイルスの拡大のあり方を冷静に見つめ、文章にしているところは驚愕である。彼が現在の状況に接したら、どんな物語を紡ぐのだろう。興味深い。
 本書にはさらに「比類なき侵略」と「人類の漂流」が収録されている。いずれも伝染病を絡めたジャック・ロンドンのエッセイ的な散文である。
 彼はなぜこんなにウイルスを冷静に見つめることができたのだろうか。ある意味、傍観的立場にいたからだろうか。渦中にいる我々のほうが、案外ウイルスを軽視しているのかもしれない。それは、ある種の現実逃避なのかもしれない。しかしながら、逃避すれば収まる類の問題とそうではないものがあり、新型コロナウイルスについてはワクチン開発まで後者のはず。
 新型コロナウイルスの感染拡大は、まだ収束しているとは言い難い段階である。連日、新規感染者数や新たな政策が発表され、なんとなく事態に慣れてきた感はある。ビジネス目的の海外渡航も解禁になるようだ。「正しく怖がりましょう」という訳の分からない話も聞くが、とりあえず、いろんな情報に接することが大切だと思う。
 本書のような小説も大切な情報源と評価しなければならない。本書は新型コロナウイルスへの恐怖心が和らぎつつある今、まさに今読むべき1冊である。一読をお薦めしたい。







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