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評者◆越田秀男
戦争体験の作品は世代を継ぎ、現代の闇をも照らす――沖縄発のエンタテイメント小説、池上永一を俎上に(「コールサック」)
No.3474 ・ 2020年12月05日




■戦争体験をはじめ、大規模災害など、体験の“風化”が言われている中、同人諸誌において戦争体験は世代を継ぎ、豊富な作品を生み、現代の闇をも照らしている。
 「その日の太陽」(黒田康嗣/舟180号)――黒田さんが28歳の時に父を想い書いた詩――〈私は息子として理解したいのだ/父の青春を/15で予科練に入り、18で特攻隊の生き残りとなった/その父の青春を/17で死を覚悟し、18で思いがけない余生を与えられてしまった父の青春を…略…あゝ 私などに一体何がわかろうか…略…〉。そして黒田さんは半世紀の時を重ね父への想いを書いた。
 「戦没学生の歌を読む――きけ わだつみの声より(2)」(中西洋子/相聞72号)――ヤップ島で人間魚雷となり戦死した塚本太郎は歌を二首遺しており、そのうちの一首――〈いとけなき昔の夢よ青葉かげ微笑み思う戯れしひと〉。中西さんの評「幼い頃の夢をみているのだろう。遊び興じているひとは誰か…略…」。
 「ドライアイス」(安海泰/てくる27号)――普段優しく接してくれていた父は、〈私〉が防空壕の遺構で遊び、父に得意気に報告したことを境に、父との間に氷壁がそそり立ってしまった、と思い込んできた。が、父の通夜で、伯父が語った「終戦直前の酷い経験」を聞き氷解する。父の勤める軍事に関わる研究所が空襲を受け、全員防空壕へ、爆撃で砕け散る。父だけが重要書類を持ち出そうと戻り難を逃れて、スパイ呼ばわり……。
 「雪に埋もれた家」(花島真樹子/季刊遠近74号)――母は亡くなる前、これまで秘匿していた事件を語りはじめた――終戦の年の秋、母が病で逝く。父は出征のまま、母方の伯母に弟とともに引き取られた。事件とは、肺炎で死んだ弟の骨を片付けてしまおとした伯母を階段から突き落とし死亡させたもの。敵役の伯母の理不尽な行為に及んだ背景も、なるほどと思えるよう描き、時代を語る作品に仕上げている。
 「掌忘却せず」(竹中忍/北斗670号)――タイトルの〈掌〉とは鉄拳の意で、軍隊組織の上意下達貫徹のための方法だ。行政機関に勤める主人公。上司は戦時中、新兵教育の教官だった。戦時体験が「良心を疼かせて孤影を与えて」いるものの、鉄拳教育を肯定する。その正体は責任回避システムであり、戦後もそのまま受け継がれ、現代政治はその痛みすら忘れてしまった。
 「納骨まで」(乾夏生/時空50号)――「父は僕の生後七十日目に出征し、終戦の三日前に戦死」、しかし遺骨も遺品もなく戦後14年経て戦死広報を取得、葬儀が行われ、墓と納骨は形ばかり。母は自ら墓を建て父と暮らした秋田・横手の土を骨箱に納めた。母の晩年、墓参りがままならず、住居近くの寺に移す。母は98歳で他界、ようやく「墓は父とおふくろの墓になった」、しかし「僕にとって、父はハナから不在だった」。
 「集骨と空手」(平敷武蕉/南溟9号)――「ビッグコミックオリジナル」(2017/11増刊号)掲載の劇画『ウーマク――占領沖縄、サソリ座の下で』(比嘉慂)を紹介。主人公は鉄血勤王隊の生き残り。自己を空手で鍛え、駐留軍に果し合いを挑み勝利、念願の基地内遺骨収集を勝ち取る。平敷さんはこの作品が、米兵が勝者を祝福したり遺骨を見て錯乱する姿を描くなど、普通の人としての側面を捉えていることに着目する。
 「池上永一の文学世界――沖縄文学の新しいシーンを創出する作家」(大城貞俊/コールサック103号)――沖縄文学は歴史的惨禍から「時代へ真摯に対峙する倫理的な」表現が主流、その中で突如として「ファンタジックなエンターテインメント小説」が出現した。大城さんは池上作品の特徴の一つとして、登場人物が「カミンチュ、ノロ、マブイ」などであることを挙げる。マジックリアリズムに欠かせないキャラクターではあるものの、沖縄の根源へ、ネドコロへ向かう水先人でもある。
 前出の「時空」に載った『横山総三という男』(大嶋岳夫)も、マジックリアリズムを活用した大人の童話。余命幾ばくもない老人が村おこしに“雪と氷の博覧会”を企図。役所の守旧派を掻い潜って死しても“マブイ”の力で成就させる。
 『永遠をバカにする』(丸黄うりは/星座盤14号)――親子三人の家庭、息子は劇画の才あり、将来は、と思ううちに中年。そこに頭は童女、体はボイン(息子が描く少女? と酷似)、年齢50の娘が妻として参入。全く生活力ゼロ、いや大いにマイナスで家庭崩壊、全員ブラックホールへ。サザエさん、ちびまる子ちゃん、永遠なれ!
 同誌の巻頭を飾る詩(『終の刻限』金沢美香)は爺々達の末路を歌う。蝉が「よろめきながらポトリと落ちた」「もう死ぬのかい/いいや まだ」と踏ん張っているうちに烏がバリバリと「捕えた獲物を砕いて呑む」。「烏の顔が振り向いた」と〆たが、この後に烏の一言を加えたくなった――「何かご用?」。
(「風の森」同人)







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