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評者◆凪一木
その75 好事、魔必ず多し
No.3476 ・ 2020年12月19日




■サイコパスをやっつけることはできるのであろうか。
 もしかしたら、これは世界初の事例になるかもしれないので、その詳細を書こうと思うが、前回書いた「サイコパス最後の日」については、いずれ改めて書く。実際には、それが最後なのかも、進行中の現在では、未だよく分からないからだ。それよりも、その「最後の日」かもしれないその日には、とんでもないことがいくつも重なった。
 私の場合は、いつもたいてい三つ重なる。多くの人が経験していると思うが、期限が似ているゆえなのだろうが電化製品などは、たとえば、炊飯器が壊れ、冷蔵庫、洗濯機など連続して三つ壊れる経験はないであろうか。そこまで家電のオールスターキャストではなくとも、アイロン、扇風機、照明ぐらいはあるだろう。
 私はこの現象が特にひどく、良いことも、悪いことも、一つ起こると、連続して三つ起こる。飛び抜けて良いことの後には悪いことが二つ、飛び抜けて悪いことの後には良いことが二つ、という法則のようなものがある。
 前に、ビル管勤務初めに火事を起こして全責任を負わされそうになった話がある。運が悪いで済ませられる話ではない。
 先日、サヘル・ローズのドキュメント番組を見た。彼女の母親は、日本に留学する夫を頼って来日する。ところが孤児(サヘル)を母国イランで預かったために、「俺を取るか、娘を取るか」と選択を迫られて、結局シングル・マザーとなる。家を出されて、埼玉県志木市の公園で路上生活する。そこから工場へ通うのだが、そこでは、いじめに遭って、製品を壊されても、彼女の責任とされ、給料から引かれる。
 そういったことは、あってはならないことだが、あることだけは確かである。
 私なども、弱い立場になってしまえば、当然起こりうるわけで、それをどう防ぐかが、この社会での問題なのだ。絶対に守られ、補償もあり、福祉もしっかりしている会社の正社員であれば、大丈夫だろう。だが、高齢の、技術不足、経験不足の派遣社員であれば、誰に守ってもらえようか。
 時給一〇〇〇円程度のお金が頼りの清掃員でも、社長室の清掃だって当然する。そこには時価数億円の絵画を飾っているかもしれないし、高価な壺だってあることもあるだろう。それを割る、傷つける。そうしたら弁償となるのだろうか。
 或る病院勤務のときに、世界に二つしかない植物の株をダメにした設備員が、かつていたという。その植物は、低温に保たれた部屋で、そう簡単には入れないように設計されている。
 まずは警備員が昼はいつも詰めている部屋があり、そこを抜けると、着替えの部屋がある。靴下までも着替えをしたうえでの姿になる。そして、最終部屋に入室する前に、小さな区画があり、完全密閉の小空間で上からシューッと薬品のしぶきが吹かれて消毒され、宇宙服みたいな恰好で、次の部屋に入る。厳重に警戒してはいるが、その最終の部屋に入ってしまえば、温度設定を低く直せば済むことであり、慌てることはないのである。
 だが、凄い音の警報が鳴り響いていると、どうしたって慌てる。警備員さんが既に慌てていて、まず研究所の教授に電話をして、それが夜中の二時過ぎで、設備員は、急遽寝起きで、夜中の二時過ぎに、ビクビクしながら向かう。警備さんから、命令口調で、今度は大騒ぎして、早く何とかしろと、言ってくる。
 教授に言われた通りのことをすればいいのだが、言われたことというのは、おそらく「状況把握し、下げられれば室内の温度をまた下げてくれ」ということだろうと思う。その状況把握という言葉を、その設備員は、ついうっかり、部屋に入るなり、その植物が無事かどうか、数歩先にある、冷蔵庫、しかも開けてくださいと言わんばかりの、その冷蔵庫の扉を、開けたのだ。
 本当は、絶対に冷蔵庫を開けることなく、室内の様子を把握し、温度設定を変えるなり、スイッチの入り切りなどして、内容を伝えればよかったのだ。しかし、植物がどうなっているか見たくなる。これが人間の心理だ。そこに入るまでには厳重な警戒と、二重三重のチェック機能があっても、最後は、人間の手で簡単に開けられる冷蔵庫のドア。
 あっ。
 そのときの様子は、痛いほどよく分かる。私も再三再四、同様のことをやって生きてきたからだ。設備会社は数千万円払ったという。その病院の被害額は、評判と信用も含めて、それどころではないという。その社員はクビにはならなかったが、いられずに辞めたという。
 さて、今回の私もまた、温度であった。二四時間勤務の私は、UPS室という部屋に寝る。本来は、防災センター隣の警備員控室に、交代で寝るのだが、交代も何も、設備員の寝る時間が、二〇時~深夜一時半と、一時半から朝七時で、警備員が、休憩時間として二〇時から二一時、就寝が深夜〇時から三時までと、深夜三時から朝六時までの二人。
 二段ベッドの上が設備で、下が警備。これでは落ち着いて横になることができない。それで、お引越しというか、音はうるさいが、広くて他人のいない、入ってもこない場所であるUPS室に、ベッドを買って寝ているわけだ。現在の設備員では、全員がこの場所に寝る。かつて隣の部屋に数回寝る人間はいた。しかし、今は皆、毎回UPS室だ。ただ、この部屋は寒い。室内を冷やす必要があるからだ。当時のマタギ副所長に寒いというと、「私もそうしているのだが、寝るときだけ、空調を切って寝れば良い」と言われた。これが運の尽きであった。
 ほかにもそうしている人がいたのかは知らないが、私とそのマタギとは、毎回いつも、寝る前に空調を切って寝ていた。マタギは転勤となり、今は私一人がそうしている。ただし、一応はしてはいけないルール違反であろう。
 だが、これを咎める人間はいない。いや、あのサイコパスは、いずれのときの問い詰める材料として隠し持っていた武器だったかもしれない。だが、どの職場でも「見逃される部類の悪いこと」だと私は考えていた。
 二四時間勤務睡眠時間ゼロのAI澤ビルサービスでは、ベッドはないが皆ソファーに寝ている。国の機関の某ビルでは、毎回一時間近く、巡回途中の部屋で、時間も部屋も人数も余っているゆえ、お休みタイムらしい。いや、他に悪い奴がいるから、私も悪いことをしていると言うつもりはない。私は、基準を超えないと思っているからやっている。
 これが大変な事態を巻き起こすことになるのだが、それは次回のココロである。
(建築物管理)







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