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評者◆伊達政保
震災の風化とコロナという現実を重ね、終わってはいないと思わせる映画――林海象監督7年ぶりの新作『BOLT』がようやく劇場公開
No.3480 ・ 2021年01月23日




■林海象監督7年ぶりの新作『BOLT』が、19年に京都国際映画祭上映後いつ公開されるか待ち望んでいたが、ようやく劇場公開された。古い友人である撮影の長田勇市くんの情報で、5年以上前から製作過程を知ってはいたが、まさかこうした一本の作品になろうとは思いもよらなかった。それは東日本大震災、福島第一原発事故を素材とし、以後10年が経ち風化をたどろうとする現在を見据えた作品となっていたのだ。
 この映画は2015年から17年にかけて製作された3つのエピソードからなるオムニバスとなっている。3作を通して主演は林監督の盟友、「濱マイク」シリーズの永瀬正敏。エピソード1「BOLT」は、大地震のため原子力発電所が被災、汚染水が漏れ始めた圧力制御タンクの配管ボルトを、命をかけて締めに行く男たち、永瀬をはじめ『夢みるように眠りたい』の佐野史郎、金山一彦など。高松市美術館に美術家ヤノベケンジが作成した巨大セットでの撮影や、防護服のSF的デザインも話題となった。一旦は締まったボルトはメルトダウンで溶け落ち、原発は水素爆発を起こす。エピソード2「LIFE」は、原発事故後、高線量で避難指定地区となった家に戻って住み続けた老人が死亡。原発作業員から遺品整理員となった永瀬が直面する現実。役場の担当職員、堀内正美がいい味を出している。人は亡くなるが、津波で被災した風景や汚染土のフレコンバックは、年月にかかわらず存在し続けているのだ。エピソード3「GOODYEAR」は、クリスマスの夜、GOOD・YEARタイヤのネオンが輝く車修理工場に暮らす永瀬の前で、自動車事故を起こした一人の女、月船さらら。震災後、東京に避難し暮らすうちに何も彼もなくし、産まれ故郷の北海道に車で帰るという。よいお年をと言って去っていく。女が人魚となる幻。そう、来る年は震災から満10年、タイトルといいネオンといい、ひねりが利いている。
 林監督はこれらのエピソードを通して、大震災・原発事故、その後、そして現在を描き出しているように見えるが、ことはそう単純ではない。エピソードの一つ一つは当初公開する意図さえなく、3年をかけて逆の順番で製作されていた。エピソード3が撮影されたのはなんと5年も前のことなのだ。一見ファンタジーのような内容だが、震災後10年を迎えようとするコロナ禍の現在と重ね合わせると、また違った内容が見えてくる。震災の風化とコロナという現実、原発事故はいうまでもないが震災は終わってはいないのだ。この映画にはそう思わせるものがある。映画の公開時期を含めそれは偶然ではない。林監督の想像力と思想性がそれをもたらしている。







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