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評者◆凪一木
その82 日本の治安は大丈夫なのか
No.3483 ・ 2021年02月13日




■いずれは省庁の実態について書くが、今回は警視庁である。あまり詳しく書くと、この記事を読んで、公安か、警察がやってくるかもしれない。
 ボストンは、もともとが技術部勤務で、そこで喧嘩をして辞めた。他の職種を探してみるも、五五歳ではなかなか見つからず、結局同じビル管業界に出戻り、しかも同じ会社に戻ったわけである。ただし、技術部ではなく現場に行かされ、私のところに副所長として赴任したわけだが、これが全く使い物にならない。責任者としての自覚ゼロ、技術もあるのかないのか、全く発揮できる場面がなく、しかも実際自分で仕事をする気がない。業者や上司、本社への電話一つ、誰かに掛けさせる。暴力団で言うところの「ヤクネタ」である。このヤクネタが、しかし「ヤクネタとビル管は使いよう」なのか、かつては活き活きと活躍していたようなのである。
 それが警察周りだ。警視庁の第三方面と第六方面を担当し、空調その他の点検をしていた。地下から専用エレベーターで行く留置場の二重の南京錠とか、消防点検は、普通のビルでは年に一回一日で終わるのだが、警察署は二日間行うといった事情を得意になって語る。かつて私がお世話になった、と書くと捕まったみたいだが、そうではなく、ビデオ屋をやっていたので、そこに署の人間がかなりの割合でやってきたのが西新井警察署だ。あそこは第六方面でも特に大きく、基幹署でもないのに、中には射撃場があって……などと、内部事情を語る。
 一番ヤバいと思ったのが、ボストンも指摘していたことだが、虚偽の名前である。たとえば最古透のように、「危険物乙4」という資格も持っていない奴は、オイルタンク点検などはできないし、電気工事士免許なく活線作業などやってはいけない。ボイラー技士資格なくして、ボイラーの取り扱いなどもってのほかだが、どの現場にも無資格者はいて、実は行っている。いずれの取得という名目で、若い新入社員などは、お目こぼし状態だ。最古のように無資格のまま三〇年もビル管に居座り続けて、責任者をやっている例は、おそらく、この現場だけであろうが、ただ存在することは存在する。ここにいた国立大工学部出身の工ちゃんもまた無資格であった。
 さて、第三地区世田谷の某所でボストンは、妙なものを見た。私が苦労して取った通称「ビル管」と呼ばれる建築物環境衛生管理者という資格は、面積三〇〇〇平方メートル以上(学校は八〇〇〇平方メートル以上)の特定建築物において選任義務があり、たいていの中規模程度以上のビルには、当て嵌まる。したがって、全国に合格者の数は少なく、不足状態なのである。年に一回の試験であり、合格率がひどいときは一〇%を切るのであるから、実感として難関と言える。
 私が調べた限りでは、やはり大手と言われるビル管会社ほど、この資格保有者の割合が高い。社員全体に対する比率で言うと、大星ビルメンテナンス(日本生命系列)が、三七%近くで断トツと言える。次がアサヒファシリティーズ(ゼネコンの竹中工務店系列)の三三%。そして東洋ビルメンテナンス(三和銀行系列)、鹿島建物総合管理(鹿島建設系列)オリックスファシリティーズ(大京グループ)と続く。鹿島などは、私も就活したが、面接官が二人、一〇メートルも離れた距離で、バカにしているのかと思い途中で帰ってきた。私の友人が入社した大手の三井不動産ファシリティーズ(三井不動産系列)は、五次試験まであり、私も受けたが、最初の書類審査で落とされた。そこでも、ビル管保有者の割合は、一〇・五%である。九割の人が持っていない。
 我が社はというと、ビル管を取得するごとに、どんどん他社に転じていくので、合格者はその都度いるのに、増えない。全社員九〇〇人(K部長の言葉)ということだが、持っているのは、一〇人程度であろう。一%だ。マーシーが、面接の際にK部長から言われたのは、「一〇〇人ぐらいいるんじゃないかな」という台詞である。入社してすぐに嘘だとバレる。そんな会社だ。私は、会社に渡してはいない。その「選任」をどのビルにどう使われるかが分からないからだ。マーシーは、返してくれとK部長に懇願して、私が労組で掛け合って、やっと一年四か月ぶりに返してくれた。言い訳が、「厚生労働省が返してくれなかった」。そんな馬鹿な。しかも、受験費用や手当が、人によって出たり出なかったりする会社である。私はどちらも貰っていない。危険物やボイラーならともかくも、ビル管で一切の資格手当のない会社なんて、そりゃあ、皆出ていくよ。私も前の会社では、ビル管は持っていなかったが、それぞれ二五〇〇円とか、二二〇〇円とか、資格手当が細かく規定されていて、一万円以上は貰っていた。それがどうしたと鼻で笑う人もいるかもしれないが、勉強のモチベーションにはなる。
 さて、某警察署である。そこには、既に辞めた人間の名前が存在するのだ。どのビルにも、「危険物屋内タンク貯蔵所」(第四類危険物)保安監督者、「第二種貯蔵所」(窒素ガス・液化炭酸ガス)保安責任者などの記載が、各部屋のドアに鉄板やブリキ版で掲示されている。その最たるものが、建築物環境衛生管理技術者である。
 人が不足しているため兼任も可である。厳密に言うと、月に一回、その建物にしっかりと点検に行かなければいけないのだが、我が社の場合、どこのビルの選任になっているか知らされてもいない者がいる。先日、団体交渉の席で同僚の選任場所がどこなのか問い詰めたら、そこで初めて(文京区の)小学校の名を知らされた。同僚は未だに行ったこともない。これはわが社だけが特別とは思われない。この業界に未だかつてメスが入っていないゆえに、実態が暴かれると大変な問題となるはずだ。
 ドラマや映画になったことがなく、かつての同僚が、警察官の職務質問で「ビルメンテナンス」と答えても、川口署の警官は、「そんな仕事、聞いたことがない」と言われるほどに、知られざる職種である。
 裏を取っていない見聞であるから、その警察署の今の選任者が、そのままではないかもしれない。だがビル管の、かなりいろいろな人間(何しろ入れ替わりの激しい、かつ同じ世界の行き来の多い業界)と関わってきた印象では、そのぐらいの出鱈目さは「あり」なのだ。考えると怖い。ただのビルではなく、警察署だ。(建築物管理)







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