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評者◆越田秀男
独房の中の広大無辺な自由、永山則夫(「あるかいど」)――言語の彼方を言語で語る、霜田文子(「北方文学」)
No.3486 ・ 2021年03月06日




■「あるかいど」の佐伯晋さんはコロナ禍のテーマで作文を同人に求めた。御自身は既存の方法を排し「事実だけを拾い集める」――え? 文学的方法すらとらない? その結果が『独房の中の「自由」』(あるかいど69号)、永山則夫を俎上に。引きこもり期間を逆手に取り、バーチャルな積極的三密で事実を集積し、その結果――「死刑によって閉ざされた彼の短い生涯は、いかなる状況にあっても人間の精神が広大無辺で自由であることを教えてくれる」。
 『言語の彼方を言語で語ること―霜田文子「地図への旅」をめぐって―』(柴野毅実/北方文学82号)――言語以前の世界へと遡り遭遇した風景。フランソワ・ビュルラン『深い闇の奥底』――「半人半獣の姿をした呪術師のような存在が、口から原始的な生物のようなものを掃き出している」(柴野)。非言語の世界が広がる。アール・ブリュット(Art Brut)の舛次崇、游文舎(柏崎市穂波町)企画展を飾る作品、川田喜久治の写真集『地図』。だが、言語の彼方を言語で捉える? 非言語世界への通路は“テキストクリティック”にあり! 作品を作家自身から切り離した粉飾のない裸のテキスト、「文学批評の基本はそこにしかない」(柴野)。
 「群系」45号では平成文学そのⅡで座談会を企画、永野悟さんを座長に土倉ヒロ子、間島康子、草原克芳の面々。その中で『宮原昭夫評論集――自意識劇の変貌』に触れた――二葉亭以来の理想と現実の自我内部の分裂・対立が、社会のそれと対をなしていた構造が崩れ、現代は自我が“異形化”に追い込まれている。藤村・直哉には強烈に存在していた自我が衰弱・曖昧化し、代用品としての私小説を生み、そして“異形化”に逢着した。笙野頼子、村田沙耶香の作品を例示しての論。
 人生を映すイメージの連鎖――『うたかた』(樋口虚舟/飛火59号)――〽もののふの八十うぢ河の網代木にいさよふ波のゆくへ知らずも(人麻呂)。少年は宇治川の網代木が生む波と泡を見つめて飽きない。幼児の頃、泡に包まれる白日夢――ヒエロニムス・ボッシュ『快楽の園』、左下に球体、中に裸体の男女。切り落とされた男性器にまとわりつく泡から生まれたアプロディーテー――幼児期の雪国での暮らしへと回帰――〽雪の降る街を想い出だけが通りすぎてゆく(詞・内村直也)。
 「私」と母とボレロのコラボ――『ボレロ』(山田美枝子/季刊遠近75号)。冒頭、私と娘の友達との会話――「新しいボーイフレンドのどこがすてき?」「ゴムのつけかたがうまいんです」。こんな私と娘達との様子に母が大好きだった兄の想い出を語り出す。呉服問屋の次男なのに浅草、エノケン志向、ボレロの舞に憑かれヒロポン中毒であの世へ。美形でモテモテ。女中や兄嫁とも関係し、葬儀では棺にとりつき号泣する女も。性愛は世代ギャップなんて無縁!。
 『グレートデンと黒いロバ』(山本直哉/層133号)――副題は「一九四四年~五年の頃 敗戦前後の満州でのこと」。短い春が予感されだしたころ、内地から叔父がやってきた。反体制活動で官憲の監視下におかれ、満州でも同様の扱いを受ける。しかたなく山奥での自然人のごとくの生活を強いられたものの、「ぼく」にとっては叔父の手足となる犬とロバが仲間となった。しかし、ほんの短いメルヘンの時を経て、叔父は徴兵され戦死、8月13日避難命令、犬とロバの遺棄という悲劇がまっていた。
 昨日のことは忘れても、あの頃のことは忘れない――『イトコの姉ちゃん』(山岸とみこ/こみゅにてぃ109号)。昭和19年、「私」は生後まもなく高崎の父の弟の家に預けられ、東京大空襲の難を逃れたものの、一家もろとも行方知れずとなった。預けられたのは4歳半までで、原風景・原体験は全てこの時期に詰め込まれた。イトコの姉ちゃんは、温泉旅行のくつろぎのなかで、赤ん坊が突然やってきた当時のことを「赤ん坊のことなんか可愛いなんて思えなかった」と、蟠っていた思いを吐露。赤貧の時代だった。
 『槇』中興の祖、松葉瀬昭さんは槇の会会長の座を乾浩さんにバトンタッチ、43号で『はるかなる国』を発表。四世紀朝鮮半島、統一王朝新羅誕生、金海一帯の小国は滅亡の危機、倭への逃避行の物語。船は流れ流れて不明の地に到着。山越え谷越え遙々と、着いた! どこに? 前半の物語に対し後半は文献精査。日本書紀仁徳天皇の項に登場する、上毛野国竹葉瀬君の件。日朝間の外交で活躍した人物。稲荷山古墳は竹葉瀬君の墓!?
 青壮老年引き籠もりの末路?――『火葬まで』(城戸祐介/九州文學574号)――会社を首になり、とある店で、絶対に永遠に切れない、と説明されたロープを購入し首吊りした田中君。が、意識がロープとともに死体に密着。不審死で解剖した女医はロープが不気味な生きものに思えてそのまま火葬場に。やっと永眠、いやロープが輝きだし……ひとりの友もなくロープに絡まった孤魂は往生できず彷徨うばかり。
 なお、九州文學は編集発行人を波佐間義之さんから中村弘行さんにバトンタッチ、第8期へ。
(「風の森」同人)







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