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評者◆小嵐九八郎
文章は、落ち着きと説得力に富む――砂原浩太朗著『高瀬庄左衛門御留書』(本体一七〇〇円、講談社)
No.3488 ・ 2021年03月20日




■作家と称して十三、四年経ってから「このままでは食えない」と思い、時代小説はそれなりの人気があるから仕事の半分はそれにしようと、無知とは怖い、中国古代思想家の莊子、江戸時代初めのキリシタンと浄土真宗との角逐、果ては、売らんかなの欲で宮本武蔵とか大盗賊の石川五右衛門の青春を、現代小説と併行して書いてきた。図図しいというか、恥ずかしさの極みというか、彼のイエスについても書いてしまった。
 その上で、日本の時代小説を書きながら自らの至らなさに閉口するのは、山本周五郎的な人の情けの哀しさや愛しさの脈脈とした物語りと、司馬遼太郎的な時代と歴史のダイナミズムの話を結んで書けないことだった。時代のでかい分岐点こそ、恋も人情も途轍もなく濃いはずなのに。いや、平時にも濃い。
 それでは、仕事柄で購読している四紙や、週刊誌などを読み漁っていると、やけに目立つ新刊の小説に気づき、気になった。
 それは『高瀬庄左衛門御留書』(講談社、本体1700円)だ。作者は、砂原浩太朗さん。
 砂原浩太朗さんは、四、五年前の『小説現代』の「決戦! 小説大賞」をもらってから、『いのちがけ 加賀百万石の礎』(講談社)の小説ばかりか、歴史コラム集というか歴史の核を突く『逆転の戦国史』(小学館)を矢継ぎ早というより疾風のように出している。
 そして、新刊の『高瀬庄左衛門御留書』を買い、読むと、江戸は元禄時代、安定しながら安定は腐敗をも生む時世、これと、人と人との情の二つを、きっちり描きだしている。
 文章は、落ち着きと説得力に富む。ついつい、全てとはいわないが納得させる力を持つ。とりわけ自然描写がふんわり、しかし、しっかり降りてくる草花については、自称歌人の俺は深い吐息をついてしまう。桔梗、からす瓜、あけび、さるすべり……。
 妻を失い、息子を亡くし、その嫁との情も、制限の中での心を撃つものがある。
 大成を祈る、砂原浩太朗さん。







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