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評者◆殿島三紀
路上で生き、路上で死ぬ自由――監督 クロエ・ジャオ『ノマドランド』
No.3490 ・ 2021年04月03日




■『私は確信する』『モンテッソーリ 子どもの家』『春江水暖』などを観た。
 『私は確信する』。監督・脚本はアントワーヌ・ランボー。21年前、実際にフランスで起きた殺人事件・ヴィギエ事件をめぐる裁判を描いた作品。夫が大学教授であり、また大の映画マニアで「完全犯罪は不可能ではない」と語っているところからメディアの格好の餌食となり、人々の好奇心を煽り立てた事件だ。夫は無罪となるが、真犯人も、殺されたという妻の遺体もみつからない謎の多い事件だった。ドキドキものの裁判映画だが、ラストの弁論シーンは圧巻である。
 『モンテッソーリ 子どもの家』。アレクサンドル・ムロ監督作品。アンネ・フランク、Amazon創業者のジェフ・べゾス。そして、日本ではあの藤井聡太棋士といった人たちが学んだモンテッソーリ教育。本作はこの教育メソッドを実践するフランス最古の学校に通う子どもたちが“お仕事”をする様子を2年3ヶ月間にわたって密着し、撮影したドキュメンタリー映画である。モンテッソーリ教育の根幹には「子どもにも自分自身を育てるという大切な“仕事”がある」という考え方がある。可愛い仕事師たちの仕事ぶりを見学しよう。
 『春江水暖』。蘇東坡の「恵崇春江晩景」の一節からとったタイトルといい、水墨画のように静謐で穏やかな映像といい、手練れの監督の作品かと思いきや、なんとこれが長編映画監督デビューとなる1988年生まれのグー・シャオガンの作品だった。まるで山水画の絵巻物を見るようで、杭州・富春江の流れ同様、綿々と連なる家族の物語を描き出している。劇映画は本作が初めての挑戦ながら、いきなり2019年カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれた。これほど美しい映画はぜひ大画面で観なければならない。
 さて、今月の新作映画は『ノマドランド』である。先頃、第78回ゴールデングローブ賞の作品賞と監督賞を受賞した。監督は中国出身のクロエ・ジャオ。アメリカで大反響を巻き起こしたノンフィクション『ノマド‥漂流する高齢労働者たち』(ジェシカ・ブルーダー著、春秋社刊)を映画化した作品だ。ノマドとは遊牧民のことだが、ここでのノマドは自分らしい生き方を求め、あるいは、哲学を追求し、あるいは、ワケあって、定住する生活を選ばずにキャンピングカーでアメリカ国内を移動しながら暮らす人々をいう。彼らは、季節労働を提供するAmazon配送センター、農産物の収穫工場、観光客向けのカフェ、国立公園のキャンプなどで働きながら、車中で暮らし、仕事が終わればまた移動する。
 映画は製作にも参加した主演のフランシス・マクドーマンドが実在のノマドたちの中に飛び込み、彼らと路上や仕事場で交流し、砂漠や岩山、森の中へ“ヴァンガード(先駆者)”と名付けた愛車で進んでいくところを撮影していく。主人公が行く先々で出会うノマドたちも本人として出演する。ドキュメンタリーとフィクションの境界をとっ払ったロードムービーといえよう。
 主人公ファーンはネバダ州の小さな町に別れを告げる。かつては石膏採掘で繁栄していたが、不況から町そのものが閉鎖され、全住民が立ち退くことになったのだ。カメラは住み慣れた家に別れを告げたファーンが夫との思い出と最小限の荷物を積み込み、雪模様の薄暗い荒野の道を走るキャンピングカーの後姿を追う……。
 「アメリカの知られざる下級国民」と表現されることもあるノマド。本作でもスーパーで主人公がかつての教え子から「先生はホームレスになったの?」と問われ、「私はハウスレスなの。ホームレスとは別物よ」と答えるシーンがある。
 『ノマドランド』はもしかしたら私たちも選ぶかもしれないもうひとつの生き方を示してくれる映画である。(フリーライター)







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