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評者◆添田馨
現代権力論――病原ウイルスとしての「アベ政治」⑩
No.3503 ・ 2021年07月10日




■「ポイント・オブ・ノーリターン」とは、そこを過ぎたら、もう引き返すことができない、そのような地点をさす航空用語である。私たちは、ひょっとして東京五輪・パラリンピック開催に向けた「ポイント・オブ・ノーリターン」を行き過ぎてしまったのではないか、という不安とも怒りともつかぬ思いが私にはある。
 オリンピック・パラリンピックの開催が、これほど政局まみれになった姿を、私は過去に知らない。菅政権は、これまで表立って“開催中止”の検討や、それをしたという表明すら行った形跡がない。つまりオリ・パラの開催は政府の動かぬ既定路線であって、どんなにそれが不合理な決定であろうと、まともに議論しない、合理的な説明をやらない、質問や追及ははぐらかして答えない、いわば“見ざる、言わざる、聞かざる”の姿勢を一貫させてきた。
 思考停止は「アベ政治」のもつ大きな負の特徴だが、まさにその悪しき体質が現政権でもこうしてみごとに踏襲されている姿に、ふかい絶望を禁じえない。
 ところで、今年の開催はいつの時点で既定路線になったのか? それは昨年、安倍前総理がオリ・パラの開催を、コロナ禍を理由にして一年延期と決めたときである。二年延期案があったにもかかわらず、なぜ一年にこだわったか? それは自分の総理大臣任期中に、ぜひともオリ・パラ開催を仕切りたかったからだろう。いち政治家の浅はかな名誉欲が、今日の不条理な事態をこうして招いているのである。
 事ここに及んで、そもそもオリンピック・パラリンピックは誰のものなのか、という根本的な疑問がわいてくる。政治や行政の私物化は「アベ政治」の常套手段だが、あきらかに現在の私たちが目の当たりにしているのは、政治利用によるオリンピック・パラリンピックの“私物化”された姿ではないか。リオ五輪閉会式での“安倍マリオ”の登場にしてからが、すでに不吉な兆候だった。その亡霊をワクチン接種で払拭できるとは到底思えない。
(つづく)







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