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評者◆小嵐九八郎
キャパシティの大きさ――黒古一夫著『蓬州宮嶋資夫の軌跡――アナーキスト、流行作家、そして禅僧』(本体二二〇〇円、佼成出版社)
No.3504 ・ 2021年07月17日




■当方は、無政府主義、アナーキズムについて弱い。一九六六年の学費とか学生会館を巡る早大闘争から活動家になったのだが、その前は、恥ずかしいというか普通の学生だったというか、自民党と社会党の間を選挙の時だけうろうろしていた。しかし、アナーキズムの、権威への舐めとか、国家や権力の否定とか、個人の主体性の追求とかは、畏怖する感覚と思っていた。ま、この理想で国家を転覆させるのは無理過ぎるとも。
 それで、俺は、牧歌的早大闘争の後に党派に入り、入ってから、その組織論が、レーニンの外部注入論や「前衛が偉い」と正反対のローザ・ルクセンブルグの「労働者の中にこそ革命性が」と分かり、感激した覚えがある。どこかで、アナーキズムへの憧れが作用したらしい。
 宮嶋資夫という、アナーキズムの作家として一九七〇年代の全共闘の息の荒さが残っていた頃に、ノンセクト・ラジカルの諸君の中でひそと囁かれた作家がいる。当方は党派の人間として論争に耐えるため、その『坑夫』を読んだことがある。一九一六年、ロシア赤色革命より前に刊行し、すぐ発禁となっている。日本共産党員の小林多喜二の名作というしかない『蟹工船』より一三年前に出している労働者に関する小説だった。但し、アナーキストの個人の悩みや怒りより、当時の共産主義の“仲間と共に”の方が、つまり『蟹工船』の方が熱いような。
 こんなことを含め、遙かに越え、人間の生き方の広さ深さ、奥、を書いた評論の本が出版された。『蓬州宮嶋資夫の軌跡――アナーキスト、流行作家、そして禅僧』(黒古一夫著、本体2200円、佼成出版社)だ。
 まず胸を撃つのは、宮嶋資夫の、そしてこの人だけではないであろう人生の悩み、苦しみ、越えたら次にやってくる試練と、作家業には絞っていないキャパシティの大きさだ。生い立ちのしんどさ、食うために職を転転とすること、アナーキズムとの出会いと小説家となり、かなりの線へ行き、童話作家ともなり、しかし、死への誘惑を抱え仏門の禅宗へ。そして、ついに浄土真宗へ――の苦悶が、論理的洞察と共に、命、生のダイナミズムで伝記小説を遙かに越えた面白さでやってくる。物を作る書くという人より、たぶん、きちんと生きようとしている人人に、ごーんとくるはず。







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