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評者◆添田馨
現代権力論――病原ウイルスとしての「アベ政治」⑪
No.3508 ・ 2021年08月14日




■いやな予感はずっとあった。東京五輪は一都三県の会場で全面無観客での開催となった。四度目の緊急事態宣言下での五輪開催強行に、そこまでしてやる意義をこれまで何度となく問われても、この政権は「安全・安心」を繰り返すばかりだった。そして全面無観客を決定するに及んで、現政権の最優先国策だった“オリンピック”自体の開催意義がついに空中分解するに至ったのである。
 「無観客」とは、実にそうした本末転倒の象徴的な現れなのだ。この政権に大会中止の選択肢は初めからなく、そういう意味では、考えうる限り最悪のパターンでのオリンピック開催となったわけだ。
 だが、これで万事が落としどころに収まることには全くならなかった。開会式の四日前になって、式のオープニング曲を担当したミュージシャンの過去の雑誌インタビュー記事が問題になった。それが、自身のいじめの加害体験を喧伝するかのような内容だったため、当人は謝罪して辞任し、曲じたいも使用の中止が決まった。
 そこに加えて開会式の前日には、式典演出の全体を調整するディレクターの、過去に本人が行ったコント内のセリフのなかで、ナチスによるホロコーストを揶揄する個所があったことが問題になり、米のユダヤ人人権団体が抗議声明を出す事態に発展した。
 私は、特に後者が惹起した問題は忽せにできないレベルのものだと思う。それは発言の当事者を解任して済ませられることではない。菅総理が「言語道断。まったく受け入れることはできない」とまで言うのなら、その言葉を裏づける決然たる行動が一番に必要だったろう。
 開会式が予定通り行われるのを見て、うすら寒い気持ちになった。これが問題化した時点で、政府や大会運営の責任者は真摯な決断をするべきだった。この世には絶対に容認してはならぬものがある。そのことへの連帯と意志の表明が公共の空間で具体的になされるべきだった。開会式は予定通り行われてはならなかったのだ。(つづく)







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