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評者◆小嵐九八郎
処刑を待つ事実の決定的重さ――池田浩士編『深海魚――響野湾子短歌集』(本体二〇〇〇円、インパクト出版会)
No.3512 ・ 2021年09月18日




■俺たちが中学から高校の時にかけて、一九五〇年代後半から六〇年代前半は、国語の時間に「短歌は、事実や経験を正直に詩にすること」と教師から教えられていた。もっとも、既に塚本邦雄が一九五一年に『水葬物語』を出していて、短歌のそれまでの写生とかを粉粉にして虚構、象徴の文学としては当たり前の道を開示していたし、寺山修司は一九五八年に『空には本』で私性にこだわったとしても奔放な嘘の美学を謳歌していた――と知ったのは、当方が短歌に監獄で凝りだして暫くしての四十代だ。
 ただ、なお、短歌における事実の重さは、万葉時代の柿本人麻呂の挽歌、大津皇子の処刑前の哀切な歌が生きてるように、生きるはず。
 死刑宣告されて、もう二年ほど前に執行された人の歌集を読んだ。それは『深海魚――響野湾子短歌集』(池田浩士編、本体2000円、インパクト出版会)だ。響野湾子は、きょうのわんこ、と読む。ペンネームだ。本名は庄子幸一という。編者の池田浩士さんの「あとがき」で引用している最高裁の判決文を読むと、為した行為は、正直に記すと、絶句するほど惨い。俺は、もう囚われた一人の人間を強大な国家が抹殺してはならないし、どんな人間でも生きて変革可能なのであり、死刑制には反対そのものである。その上で、二人の女性を強姦し、金品を強奪して殺し、殺しはなかったが再犯……と知ると、考え込む。
 だけれども、死刑囚として処刑を待つ事実の決定的重さは、かなりの迫力をもってやってくる。
《我が「死」とは突然なれば揃へ置く遺髪に爪を入れし封筒》
《あの青き空を切り取り独房の暗きに貼りて置きたしと思ふ》
《認知症の母は来る度帰り来る汽車賃あるかと必ずに聞く》
 事実に負んぶしない、おいーっと感じるしかない歌もある。
《風の中に我が名呼ぶ声かすり入り人影を探しと一日を終う》
 二年前の六十四歳での真夏の死刑執行で、ちいーっと遅れたけれど、合掌。







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