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評者◆ホメロス
ウィズコロナのリアルを描ききる
アンソーシャル ディスタンス
金原ひとみ
No.3513 ・ 2021年09月25日




■2004年に芥川賞を受賞した「蛇にピアス」は読んでいないが、子供ながら(当時僕は高校生だったと思う)にあらすじを読んでとてもエロティックな小説を書く人なのだ、というイメージがあった。
 それから15年以上が経ち、そういったシモのことに無縁ではないが近からず過ごしてきたが、時事を盛り込んだ文学作品としてはどうなるのか、興味を持って今回は読んだ。
「ストロングゼロ」――出版社編集をしている桝本美奈はアル中だ。病気を抱える彼氏の行成を養い、仕事もストロングゼロを朝から飲みながらこなす。セフレの裕翔ともだらだらと付き合いを続けるしかなく、どうにも身動きが取れない日々を過ごす。……平凡な人間でも依存症に転がるほど追い詰めるのは平凡な人間だ、と。
「デバッガー」――恋愛に本気になれずにいる森川は、年下部下の大山と付き合うようになる。大山に悪い面を見せたくない、と整形を重ねるが満足できなくて。……どんなに受け入れてくれても、我慢できない何かが存在するものなのか。
「コンスキエンティア」――セックスレスの続いている茜音と夫。セフレの奏と別れることを決意したある日、帰ると夫から急に抱きしめられ、無言のままセックスをした。その後親友の弟の龍太とセックスして帰った夜、唐突に夫が「彼」がいることを知っていることを暴露する。……自分のことを一番よくわかっているのは自分ではなかったかもしれない。
「アンソーシャル ディスタンス」――中絶した就活生の沙南と彼氏の幸希。楽しみにしていたバンドの公演も中止になり、絶望した2人が選択したのは心中だった。……現状に我慢のできない人が山ほどいて、その理不尽を憎しむ気持ちは誰もが持つ。
「テクノブレイク」――芽衣は趣味のあう蓮二と付き合うことになり、すぐに蓮二の体にのめりこむ。ある時、コロナが流行り出し家にいるときもどんなときも汚さを嫌悪するようになり、蓮二ともそれをきっかけに疎遠になり。……自分のことしか見えていないのは誰のせいなのか。
 5編を通して気づいたことは、「ソーシャルディスタンス」という言葉と、男と女の関係とが、そういえばうまく合致しないものであるということだ。夫婦や婚約者ですらも濃厚接触となると騒がれる世の中で、恋人はおろかその手前の段階では会うことすら憚られる世の中になってしまっている。
 著者は、その中でも恋愛・不倫に勤しむ男女をひたすら描写する。しかし「勤しむ」と書いたが決して悪い意味(ただし、不倫関係を悪いものだ、と一般的に規定される点についてはここでは論じない)ではない。コロナ前のような欲望の実現をしようとすると、なぜかいまウィズコロナの中では達成できない。それは、欲望を吐き出そうとするときに必ずディスタンスの問題が介在する。そのディスタンスは周囲の人に見つかると途端に乗り越えられなくなってしまいそうになる。
 今回の作品はその「乗り越えられなくなってしまいそうになる」狭間にいる、10代後半~おそらく30代の大人たちを丹念に描きとっている。彼らの姿を生々しくあぶり出し、その姿をより濃厚にしていく。きっと、コロナ前のディストピアであり、ウィズコロナのリアルだ。
 一個一個の内容に常に何とも言えない気持ちや後味に襲われる。しかしそれは、リアリティを徹底して追及したからに他ならない!







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