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評者◆休蔵
独自視点で紡がれた文豪たちの童話
幻想童話名作選――文豪怪異小品集 特別篇
泉鏡花、内田百閒、宮沢賢治ほか著、東雅夫編
No.3517 ・ 2021年10月30日




■文豪による幻想童話を集めた作品集。参集した文豪は泉鏡花に江戸川乱歩、夢野久作に谷崎潤一郎、三島由紀夫に宮沢賢治などなど、どの作家もビッグネームばかりである。それぞれの独自視点で紡がれた童話は、テイストが大きく異なり、飽きることなく読ませてくれる。編集は、ちくま文庫で『文豪怪談傑作選』シリーズを手掛けた東雅夫で、本作においても確かな完成度を示してくれた。
 個々の童話の内容は、個別に取り上げるまでもないだろう。本作を読んで一番唸らされたのは、それぞれの文章の差である。昨今、ビジネス文書にせよ、場合によっては専門書においてすら読みやすさが説かれている気がする。読み手のことを考えて、伝わる文章が最良とされ、それはそれで納得して過ごしてきた。
 本書は童話を選出したものである。一番最初に登場するのは泉鏡花の「海戦の余波」。決して読みやすくない。いや、まったく読みやすくない。難しくすらある。時代もあろうが、なんという言葉使いだろうか。とても子ども向けとは思えない。語尾に“候”なんて付いてしまうこともあった。使われる漢字や言葉の数々は、とても童話というカテゴリーを気にしたとは思えない。
 谷崎潤一郎の「人魚の嘆き」もなかなか難解な言葉使いが展開されていた。童話だから子どもに合わせようという気配がまるで感じられない。しかしながら、作品の質が高ければ、子どもたちはきっと無理やりにでも読もうと試みたのではないだろうか。
 本書は様々な時代の空気を吸って作品を紡ぎだしてきた文豪たちの幻想的な童話を集めている。時代の相違が文体の相違にも繋がっているのであろうが、未知なる幻想世界に興味を抱く子どもたちの本質に大きな差があるとは思えない。
 本書の掲載されているいくつかの童話を難解と感じた私は、おそらく言葉に対する修練が足りていないのだろう。読みやすいことを何よりも是としてきた風潮は、人々を言葉の修練からいよいよ遠ざからせてしまうことになろう。もちろん、難解な文章を読まずにすむのなら、それはそれでいいのかもしれない。でも、美しい言葉の数々や言い回しが喪失してしまうのは、日本文学において大きな損失であることは間違いない。
 これからも読みやすさが奨励される風潮に変わりはないだろう。むしろ、それは今後ますます促進していくと想像される。でも、せっかく数多くの文豪たちが、当時の子ども向けに紡いだ童話があり、それを読む機会が現代の私たちにあり、それが何らかのタイミングで世に提示され直されるのであるから、それは大いに活かさなければなるまい。売り上げは、さらなる機会の創出に繋がるに違いない。
 そんなことも踏まえて、ぜひ多くの人たちに読んでもらいたい作品である。







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