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評者◆編集部
こどもの本棚
No.3522 ・ 2021年12月04日




冬のひととき、物語のぬくもり
▼わたしのバイソン
▼ガヤ・ヴィズニウスキ 作/清岡秀哉 訳
 作者のガヤ・ヴィズニウスキさんは一九八〇年にベルギーで生まれ、ブリュッセルのサン・リュック学院で絵を学び、デッサンの教師となりました。その後、絵本作家としての活動を始め、南仏に住んで創作を続けています。『わたしのバイソン』はヴィズニウスキさんのデビュー作で、四つの賞を受賞しました。
 バイソンとは大きな毛むくじゃらのウシ科の動物で、主人公の少女が四歳のときに偶然出会いました。ある春の日のこと、ママが抱っこして少女にバイソンを見せてくれたのです。それ以来、少女は毎日、バイソンに会いに出かけました。最初はおっかなびっくりだったけど、あるとき「もっと、こっちへ、おいでよ」という声が聞こえます。少女はバイソンといっしょにいたいと思うようになりました。
 でもバイソンは群れにもどらなければいけません。雪が降る冬の季節になったらもどってくる。少女はずっと待ち続けます。少女だけではありません。森の生きとし生けるものがみな、バイソンがいなくて寂しい思いをしました。
 ある雪の日、ついにバイソンがかえってきた! 少女は、ずっといっしょにいたいという願いをかなえます。それから何年も、ふたりは身を寄せ合って暮らしました。もうママもいなくなり、ふたりは年をとりました。そしてバイソンも姿を消します。
 白と黒を基調に寒色系の美しい絵が展開していきます。頁を繰るごとに暖色の気配を感じるのは、物語のぬくもりに包まれるからでしょう。それは少女がバイソンに感じたものに他なりません。(10月刊、28cm×20cm三二頁・本体一六〇〇円・偕成社)


短期思考から長期思考への転換
▼グッド・アンセスター――わたしたちは「よき祖先」になれるか
▼ローマン・クルツナリック 著/松本紹圭 訳
 この本のタイトルである「グッド・アンセスター (The Good Ancestor)」とは、日本語に訳すと「よき先祖」あるいは「よき祖先」ですが、訳者の松本さんは翻訳にあたり、アンセスターを先祖では
なく祖先と訳しました。前者には血縁を意識したイエの先人を指すニュアンスがあるのに対し、後者には血縁をこえた人類集団としての繋がりを意識するニュアンスがあったからだそうです。血縁で現在・過去・未来と繋がる関係ではなく、人類史的な規模で過去から未来へと繋がっていく関係の連鎖のなかでグッド・アンセスターを考えていく意味が、この訳語の選択に込められているのです。
 「グッド・アンセスター、よき祖先への道は、私たちの前にある。その道を選ぶか否かは、私たちの選択次第だ」。よき選択をするためには、私たちは「短期思考」を捨てて「長期思考」で人類の過去から未来を、一年ではなく百年、千年、万年というタイムスパンで考えていかなければなりません。それには近視眼的な「マシュマロ脳」ではなく、長く考えられる「どんぐり脳」を育てていくことが重要になります。そこでは「道順を見つける力(ウェイ・ファインディング)」、世代間の時間軸を広げてくれる「おばあちゃん効果」、時空をこえて続く繋がりである「社会的協力」、石器道具技術から発展した「道具のイノベーション」が大きな役割をはたしてきたわけです。
 私たちは何者であるか、という問いをめぐるストーリーを変化させ、創造する世界へと時間軸を長く、そしてディープに伸ばしていく。そうすれば、人間の存在など宇宙の歴史に照らせばほんの一瞬の星屑のようなものにすぎないことを知ると同時に、宇宙や世界の問題を考えることのできる認知能力が人間にあることにも気づかされるのです。
 「今、ここ」に囚われた視点から、人類の未来を見すえた長期的な視点へと変化することが求められています。しかし、それを阻む四つの根本的な障害があると著者はいいます。一つ目は、「政治が未来を植民地化し得る状態にある」という政治システムの時代遅れの制度設計。二つ目は、短期的な利益と即時的満足に熱中する経済システムという既得権益の力。三つ目は、遠い将来の計画よりも現在の不確実性や混乱した状況を重視する「今、ここ」の不安。四つ目は、生態系の惨事や技術的な驚異などに対する危機感の希薄さです。
 これらの障害を打破し、未来を脱植民地化して長期的思考へと転換する指南書が、まさしくこの本です。「よき祖先」になれるか否かは、未来の子孫たちが、私たちをどう見るかという長期思考の如何にかかっているのです。(9・30刊、A5判三二〇頁・本体一八〇〇円・あすなろ書房)


プレゼントをもらえるかな
▼いっしょにおいわいクリスマス
▼クリスティーナ・バトラー 文/ティナ・マクノートン 画/女子パウロ会 訳
 もうすぐ、みんなの待ちに待ったクリスマス。クリスマスツリーに似合うもみの木を探しに、はりねずみくんは、こねずみちゃんやおともだちと雪のなか、森に行きました。そして、ぴったりの木をみつけて、部屋に据えて飾りつけをします。とてもきれいな飾りに、みんな大喜び。でもみんな、いろいろ言うことが多くて、文句大会のようになってしまいます。
 これではいけません。みんなで外に出て、氷の上をスケートしようと、凍った湖に行きました。からだを動かし、とてもいい気分になって部屋に戻ってきたのですが、次の朝には、やっぱりみんな、ごきげんななめです。
 さて、みんな、クリスマスを一緒に祝って、プレゼントをぶじにもらえるのでしょうか。たのしい冬物語は続きます。(8・15刊、28・5cm×23cm二六頁・本体一一〇〇円・女子パウロ会)


コロナがなくなる日を待ち望んで
▼ばいばいコロナ
▼中川素子 作/日隈みさき 絵
 絵本のタイトルである「ばいばいコロナ」は、みんな思っていることですね。新型コロナウイルス感染症はいったいいつまで続くのでしょうか。学校行事も中止や延期、短縮ばかりだし、教室で食べる給食も、みんな向かい合って、たのしく大口を開けてというわけにはいかず、同じ方向を向いて黙食の日々です。自粛続きで、思いっきり遊んだり叫んだり、わいわい楽しんだり、旅行や会食や遠足が楽しみ、という生活もすっかり遠くなってしまいました。
 そんななか、せめて想像の中だけでも子どもたちに解放感を味わってもらいたいという、絵本・美術評論家の中川素子さんの思いを出版社が共有し、子どもたちの閉塞感を吹き飛ばしたいという願いを込めて、この絵本が制作されました。まさにいま求められている、楽しみな一冊です。
 「コロナウイルスがいなくなったら、まちじゅうのひととあくしゅをする。グータッチ、ひじタッチなんかじゃなくて、てとてをギュウウッ、ガシッとにぎりあうあくしゅだよ」。
 日隅みさきさんの絵は、そんな希望と願いをやさしい絵で表現しています。ばいばいコロナ! そう思いっきり叫ぶことができる日を待ち望みながら、期待に胸をふくらませて開く絵本です。(9・17刊、22cm×21cm三二頁・本体一五〇〇円・鈴木出版)


ヒグマの生態を捉えた写真絵本
▼ヒグマの旅――森と川、山と海
▼二神慎之介文・写真
 ヒグマは日本の陸上に棲む最大の動物で、北海道に生息し、大きいものは体長二メートル、体重四〇〇キロを超えるそうです。この本は、写真家の二神慎之介さんが道内の森や川、海や山を旅するヒグマの暮らしを追った、とても見応えのある写真絵本です。
 いまはちょうど、数ヶ月におよぶ冬眠に入るために、食べに食べたヒグマが眠りにつく頃でしょう。とにかく、ひたすら食べ続ける日々をすごすことがよくわかります。
 四月頃に冬眠から覚めると獲物をもとめて動き出し、エゾシカなどの動物を捕まえます。そして柔らかい根や草や葉を食べます。小さな虫も大好物です。夏になると、森や草原にいたヒグマは食べ物を求めて山に登ります。ヒグマにとってはこの夏が最も厳しい季節だといいます。そして夏を乗り越えると、山を下りて海までたどりつき、河口近くで、産卵のために川を遡上するサケを狙うのです。とにかく美味しいところだけをかじっては捨て、かじっては捨てを繰り返し、ひたすら食べ続けるのです。「なんともぜいたくな食べ方です」とありますが、写真を見るとまさしくそのとおり、なるほどとうなずかされます。そうして山に入り、秋の森の恵みであるドングリやナナカマド、ヤマブドウなどを食べ続けます。そうしてふかふかの落ち葉の上で休み、眠りにつきます。
 自然のなかを生き抜く生態をみごとに捉えたこの写真絵本には、ヒグマのことをもっと知りたいという読者のために、Q&A形式の解説が付されています。調べる学習などにも有益な一冊です。(9・18刊、B5判四八頁・本体一八〇〇円・文一総合出版)


紙あそびのガイドブック
▼藤田浩子の新聞紙・牛乳パック・おりがみでおはなし
▼藤田浩子 編著/保坂あけみ 絵
 「いつでも・どこでも 楽しめる」シリーズの第四巻となるこの本は、前巻の「紙さえあれば」の続編です。編著者の藤田浩子さんは、六〇年の長きにわたって幼児教育にたずさわり、全国各地の幼稚園や保育園、図書館などを回って若いお母さんたちにわらべうたや、あそびを伝える活動をしてこられました。この本も、おもちゃを「買う」のではなく、身近なものから「作る」ことを大事にしてこられた活動の結晶といえる一冊です。
 身近にある新聞紙と牛乳パックで、いったいどんなおもちゃができるのでしょう。たとえば、ちぎった新聞紙でつくる風呂や雪合戦、花吹雪。評者自身も子どもたちも、これでさんざん遊びました。もう部屋中が新聞紙の屑だらけで、そこにダイビングすれば、紙(ゴミ?)の海に沈む感じがなんともいえず心地よいものです。後片付けがとても大変ですが……。
 牛乳パックは丈夫なので、びゅんびゅんごまづくりにピッタリ。おりがみや画用紙でマトリョーシカや花火を作るのも楽しそうですね。パタパタ自己紹介には、工夫が凝らされていて感心します。
 遊び心を刺激する、紙あそびのガイドブックとなる一冊です。(19・11・1刊、18cm×23cm五二頁・本体一二〇〇円・一声社)







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書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

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