書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります
評者◆越田秀男
福島浜通りの震災・原発文学フォーラム(「コールサック」)――失明してみえてくるもの(「北斗」)、母が母でなくなっていく(「季刊遠近」)
No.3522 ・ 2021年12月04日




■『コールサック』は四月「福島浜通りの震災・原発文学フォーラム」を開き、107号で概要を紹介。短詩形式作家のセクションでは、詩人の齋藤貢さんは、石原吉郎のラーゲリ体験を記した『沈黙失語』の一節「異常なものが徐々に日常的なものに還元されていく」を引用し、風化に抗い“覚醒”の持続で対峙していくよう訴えた。俳人の永瀬十悟さん、歌人の本田弘さんは自作の句、歌をそれぞれ披露、「打ち続くなゐのハンマー砂あらし(橋朧)」(なゐ‥地震)、「黒き袋は土のなきがら入れられて仮置き場に置かれてゐたり(磐梯)」――土の亡骸、土の被曝。
 舌先で点字を読む――『木俣修研究――ハンセン病の歌』(安部真理子/谺102号)――木俣修が「癩を病む人々の欲求――わが選歌ノート」で彼らの歌を紹介したのが昭和24年、その三年後に青森市の松丘保養園を訪れ、「北の癩園」12首を発表。そのうちの一首「こみあげくるものは言葉を失はしむ癩者らが待つ門くぐり来て」。外来者はくぐれるが患者はくぐれない門だった。瀬戸内市の長島愛生園で失明するまで教師を務めた深田冽の歌「舌の先に君が読みゆかむ年賀状にヨハネの書の一節を書く」。視覚も指の感覚も失った人の“舌読”、読める喜び。
 高齢で失明してみえてくるもの――『月の家』(片山昰子/北斗680号)――主人公は高齢者用賃貸住宅に移り日常をつくろうとするが苦戦。共用の食堂で“財布紛失”の一件では、ヘルパーから真っ先に疑いをかけられた。老い先の不安――「長い年月、努力して培ってきたものを、ある時から、頭の中からぽとぽとと落としていく」。片山さんご自身、失明。音声の出るパソコンを駆使しての執筆活動だ。
 母が母でなくなっていく――『母恋』(小松原蘭/季刊遠近77号)――厳格な父は晩年、脳血管性認知症で穏やかに逝った。その後の私は、母と北海道室蘭の母恋駅にいくことが望みの一つ。その母に、コロナ禍を境に鬱症状から物取られ妄想や異常行動が現われ、標的は私に。「こんな泥棒と暮らすなんて地獄よ」――アルツハイマー型認知症の“周辺症状”。診断した医師には「あなたが壊れてしまいますよ」と支援サービス・施設の積極活用を勧められる。軌道に乗った執筆活動もままならなくなった。しかし私は開き直った。壊れた母と真正面から向き合い、「今の母と私の暮らしを書こう」。“今”とは小松原さんの今。
 魔法の言葉――『だいじょうぶ!』(竹野滴/麦笛19号)――舞台は知的障害者作業所。朝方利用者の一人が所在不明、手分けして探すことに。介護職員の主人公は、利用者の一人を連れて車で捜索。なぜ連れて? 彼は心に撞着が起きると錯乱状態となる。案の定、同行をいやがり、玄関の靴棚で、靴の並びを整え・乱す、相反する行為を繰り返し始めた。そこに居合わせた利用者送迎の運転手、熊本のおっちゃんが「だいじょうぶ!」と声を掛けると、「ガッテン承知の助!」と応じ収まった。おっちゃん開発の頓服言葉は、他の職員も真似たが、今や効き目があるのはおっちゃんの声かけのみ。
 貧乏国ニッポン(加谷珪一)、確かに――『シャボン玉』(加藤清三郎/てくる29号)――立ち枯れ間近の商店街。主人公は母の遺したパン屋+駄菓子屋コーナーを引き継ぐ。店に入ってきた母娘、母はパンのミミ、娘はシャボン玉セットを凝視。結局、ミミは無料で、シャボン玉はくすねて持ち帰る。昼、二階で休憩する主人公。路上ではランドセルを放ってシャボン玉遊びをする少女たち。すると背後からあの娘、ランドセルに手を掛ける。主人公はそれに気づき、パンのミミをあげようと声をかける……シャボン玉飛んだ屋根まで飛んだ屋根まで飛んで……。
 人生ゲームと将棋ゲーム――『二歩の父』(伊福満代/龍舌蘭203号)――息子〈歩〉の進学問題を切っ掛けに離婚した主人公の〈角也〉は、空き家になっていた実家に戻ると、学生時代の友で早死にした男の妻と恋仲に。子〈正彦〉がおり再婚に慎重だったものの、慕ってくれており、決断。と、〈歩〉が突然訪れる。〈正彦〉と〈歩〉で二歩。因みに角也の父の名は〈銀也〉。銀也の訳あり離婚から物語が展開、構成力に富んだ作品。
 デシャバらないオヨネ――『バトウセイウン』(谷口俊哉/雑記囃子26号)――昭和半ばまでは縁故やデシャバリオヨネの時代だった。仲介・ナカダチは鬱陶しいけど、情もあった。核家族化が進み、核内でもそっぽを向き出す。そこに闖入してきたのが馬頭星雲に顔かたちが似ているエイリアン? インベーダー? 一一〇番! と焦っているうちに住み着いて、家事はこなすは子供の相手や窃盗団の撃退まで。一カ月後忽然と消えたが、家族は向き合うようになっていた。
 読んで凝りをほぐそう――『同舟』(水無うらら/星座盤15号)――彼女は、会社での自分はジグソーピース、一欠片、完成図は雲の上、鬱屈が溜まって、頭・体が凝りコリ。頼りの彼氏は心の病で休職状態。辞めてやる! 別れてやる! 結果、一人ぼっち、無職。彼氏に詫びると、マッサージの仕事をしたら、と呑気。仕事の成果が即座に実感できるかも。就活成功、人柄の良い店長のおかげで研修も乗り切り、ウキウキと自転車通勤。雨、傘差して寄り道してスッテンコロリン。店長も信頼していた彼氏に裏切られて災難。風雨同舟! 無事復帰!
(「風の森」同人)







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約