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評者◆睡蓮みどり
改めて、映画の楽しみとは何か――D.A.ペネベイカー監督『ジギー・スターダスト』、マリア・シュラーダー監督『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』、アナス・トマス・イェンセン監督『ライダーズ・オブ・ジャスティス』
No.3526 ・ 2022年01月15日




■改めて、映画の楽しみとは何か。何度もしつこく言っているような気もするが、私なりに映画が映画であると思う所以は、体感することだと思う。大画面と向き合っているその間だけは、映画の世界に酔いしれることができる。CMが途中で流れることもないし、最初から最後まで通して映画に流れている間は同じ時間を体験できる。感情移入などもその一つだが、その時代にタイムスリップするという楽しみ方だってある。だからどんな方向であれ、飛んでいる映画は何かしら楽しいものだ。
 『ジギー・スターダスト』は極めて変な映画であった。2016年に急逝したデヴィッド・ボウイ生誕75年を記念してリバイバル上映されるこの映画は、1973年のライブツアー最終日に撮影されたものだ。バンドメンバー自身も思わぬ形での解散宣言に驚かされた伝説のライヴでもある。
 ロック好きでなくとも、デヴィッド・ボウイの名前を聞いたことがないという人はいないだろう。日本でも忌野清志郎やジュリーこと沢田研二をはじめとするミュージシャンだけでなく、映画界、少女漫画界への影響も大きい。先日、埼玉県立近代美術館の「美男におわす」展で、少女漫画雑誌「JUNE」の表紙にデヴィッド・ボウイがアイドル的な存在として写真が掲載されていた。当時そういう人気振りだったのだなと改めて知った。当時の少女漫画のキャラクター造形に影響したのは有名な話だが、個人的には萩尾望都の「メッシュ」の主人公のメッシュがそっくりなのではないかと思う。両性的で、どこか脆い感じがするが、目は危険なほど鋭い。
 『ジギー・スターダスト』に話を戻すと、この映画はほとんどずっとライヴ映像が続いていて、楽屋でのシーンなどもちょろっと出てくるだけだ。本人のインタビューもなければ、誰かが熱く語るシーンもない。ただ、デヴィッド・ボウイは歌い続け、動き続け、その歌詞をじっくり感じて、当時の観客と一緒になってひたすらライヴに酔いしれるのである。つまり、この映画の編集方法だとかカメラワークだとかの技術的な側面だけで語ろうとすることは、ほとんど意味がないのだ。それにしても、よくこんなにも音が綺麗に録音できたなという驚きは後々十分過ぎるほど感じたのだったが。
 1月8日は彼の誕生日であり、1月10日は彼の命日でもある。地球に来てくれてありがとう!

 続いて、ご紹介する『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』は、意外な、といっては大変失礼な言い方になるが、期待していたよりもずっと興味深い作品であった。恋愛に興味をなくした優秀な研究者の女性アルマ(マレン・エッゲルト)と、完璧な理想のパートナーであるトム。しかし、トムは人間ではなくアンドロイドである。この手の恋愛ものはなんとなく先が見えてしまうし、ロボットと人間の関係はこれまでもさんざん映画に登場してきた。「ロボットとは本当には心を通わせられない」と人間はどこかで思う。その「本当ではない」ことが辛いのだ。人間とロボットの話で好きな映画は『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』だ。そこに出てくる車のロボットバギーちゃんとしずかちゃんのやりとりがなんとも切ない。
 しかし、完璧であることは本当に魅力的なことなのだろうか? 完璧なパートナーのトムはアルマを苛立たせる。完璧な人間のような存在に、完璧でない人間は苛立つのだ。完璧であるということは、しばしば人間を不安にさせる。すでに理想の条件を満たしてしまっている相手なんてつまらない。人間は学ぶ生き物である(はずだ)。互いに成長できること、できなかったときに支え合えること、そんな関係にどこか安心感を覚える。つくづく人間は理想と生活をしたいわけではなく、脅かされることなく安心して暮らせることに満足を覚える生き物なのだと感じる。
 かつての子どもの頃の淡い恋の影を大人になっても引きずっているアルマには、トムがかつて恋したあのトム(トーマス)であるかもしれないという、ありもしない仮定に少しだけ胸をときめかせる。10名だけがこのアンドロイドパートナーの実験対象であり、他の友人は何も知らないということや、子どもを望むことへの傷と焦りなど、設定の荒さは否めないが、ラストシーンをはじめ素晴らしいシーンが何度も訪れ、陳腐な恋愛劇にならないところにこの映画の力量を感じた。トム役のダン・スティーヴンスはエマ・ワトソン主演の『美女と野獣』の野獣役や、去年公開されたばかりの『ブライズ・スピリット』などで活躍する俳優で、はまり役だった。

 最後に『ライダーズ・オブ・ジャスティス』をご紹介したい。最初に言っておくと、私はマッツ・ミケルセンを褒めることしかできない。ファン心理丸出しで、本来ならばこの作品を評する資格がない。好きすぎてできないのだ。しかし、マッツ、坊主頭かぁ。そもそも引退した軍人役ということでこの髪型であることは自然なのだが、できればもう少しだけ違う髪型が良かった。いや、長髪だったら役柄的におかしいし、高倉健ばりにマッツ演じるマークスは不器用な男なのだ。そんなわけで、いったんマッツ・ミケルセンではなく、よく似た別の俳優だと思ってこの映画を見てみることにしようとしたが、無理であった。髪型は好みのうえではアレだが、気が短くて、なんでも暴力で解決しようとしてしまう持て余したエネルギーに包まれ、なんとも哀愁が漂う。
 ある事故に巻き込まれ妻を亡くしたマークスは、ひょんなことからただの事故ではないと知らされ、復讐を決意することになる。ハッカーや数学者など、個性的な仲間とともに、事件の真相を暴こうと物語は進んでいく。どんでん返しも多発する。トーンは全然違うが、『アナザーラウンド』での、仲間たちと楽しくふざけるマッツを何度か思い出す。マッツのことばかり書いたが、それぞれのキャラクターたちが実に生き生きとしている。ぎこちない娘とのやりとりもいい。アクション映画としての派手さだけでなく、クリスマスシーズンの温かみの印象が、見終わってからも胸に残る。マッツ・ミケルセンファンでなくともぜひ見て欲しい一作だ。
 2022年も、どうぞ、読者の皆様にとっても幸多い年となりますように。今年もよろしくお願いいたします。
(女優・文筆家)







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