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評者◆越田秀男
島尾敏雄、晩年の自己探求の核にあるもの(「群系」)――近代的自我は本来の自己を忘れ隠蔽した仮構物(「北方文学」)
No.3532 ・ 2022年02月26日




■石井洋詩さんは「群系」で島尾敏雄論を展開してきたが、47号は『島尾敏雄『震洋発信』を読む――晩年の自己探求の核にあるもの』、島尾のラストステージだ。前46号では『廃址』を中心に論述――《妻の発病の原因が戦時中の自身の中にある》ことに気づいた島尾は、“島”と正面から向き合い同化する道を歩み始めた。《妻の発作を自分の肉体の中で起こっていることとして感受する》、戦争体験も《地域住民の抑圧者》、加害者として自己を晒す。もはや島尾にとって自我の表出は文学的課題の埒外となった。
 榎本宗俊さんは自我について《近代の知的上昇とは、本来の自己を忘れ、隠蔽して仮の自我を構築することであった》(『民芸について』北方文学84号)。ならば本来に立ち帰るには? “民芸”という概念を提示する――《民芸とは民衆の「私を諦めたわたし」の衣食住の美》――《自我を横に超えていくこと》《〈自然〉とは………〈非知〉へと着地していく中にある》――浄土教美学と吉本隆明の思想のコラボ。横超の類例句歌に鈴木真砂女、芥川龍之介、種田山頭火、沢水禅師、岩淵喜代子、釈迢空ら、〆は妙好人お軽さん――〽只でゆかるる身を持ちながらおのが分別いろいろに。
 美の女神が微笑むか閻魔羅闍が嘲笑うか――『玩物喪志』(林達/青磁43号)。骨董の魅力に取り憑かれた男がその道の熟達者に師事してその奥深さを知っていく。登場する一つ一つの古美術品が、登場人物以上に個性をもって売る側、愛でる側双方を翻弄する。ものすごく目利きの廃品回収リサイクル屋や、車で移動中、外の景色に掘り出し物を見つけてしまう骨董商、なども登場。最後に「所持ったら死ぬ」古染付の皿。見せてもらおうと伺ったら「怖くて手放しちゃった」。
 三番じゃダメなんですか――『異国の風』(花島真樹子/季刊遠近)。パリ旅行、リヨン駅で〈私〉を出迎えてくれた彼女は十日後にピアノコンクールを控えていた。プロが保証されるのは二位まで。実はプロを目指していたのは姉で、受験に失敗して病んでしまった。姉は母の果たせなかった夢の代役、彼女は代役の代役。結果は三位。その後消息を絶ち、東京に現われるとホテルでジャズをピアノ演奏していた。画家志望の彼氏と南フランスで生活する計画だ。日本はダメなの? 父は外交官で一時日本の学校を経験したが酷いいじめに遭った。ジメジメ、鬱陶しい日本よさようなら。
 犬は嫌いだ、猫も鳥もハムスターも人間以外みんな!――『微熱』(渡邊眞美/龍舌蘭204号)。語りの節々に孫の話を挿入。確かに孫は可愛いさ……短期間預かった? あぁ若夫婦、いろいろ大変。で? 孫と折り合いがつかない? 手に負えない? あぁそれで犬猫の話をネ、あっ? 孫は人間ですよ!
 すれ違うけど交わらない、って何?――『エスカレーター』(遠山茜/層135号)。20年ぶり本社勤務、エスカレーターでいつもすれ違っていた片思いの女を20年ぶりに発見、大声で呼び止め追っかけ探した。で? 喫茶店で会うことに。ほぉ、うまくいきそう? 振られた。なんで? エスカレーターの関係だから。
 79歳になる今でも母から貰った手鏡を身近に置いている――『鏡の中』(中田重顕/文宴136号)。満州で父が結核に罹り職を失い一家は帰国。終戦まもなく父・妹が相次いで亡くなり、主人公も脊椎カリエスで小二小六中三の三度もギブスベッドに。手鏡が映し得る極端に狭い世界に閉じ込められた。思春期での発症。粗相をした。夢精だ。厳しい母がその時は優しく始末してくれた。美人の母に言い寄る男は多かったが、毅然としてはねのけ、母子家庭を守り抜いた。
 スーパームーン、最後のお月見――『ひしゃげた月』(片山響子/北斗684号)。《暗闇に両手を突き出してみる。手のひらをひらひらさせて見る。なにも見えない………両手で頬を、身体を、触ってみる。ある、ある》。ひしゃげた月が見納めとなった。片山さんの創作活動への真摯な取り組みは、言葉を紡ぐことの初心に私たちを連れ戻してくれる。
 死んだ父が生きていた?――『恭平の家』(宮川泉/槇44号)。主人公の親は離婚し母に育てられたが再婚、義父に馴染めず、高校卒業後家を離れて自活。三年ぶりに母が、父の死の知らせを持って。主人公は父の家に向かう。と、父が出てきた……しかしそれは幻夢の中の再会であり、やがて解けると、骨壺との対面。幻夢ではあったが、父の確かなぬくもりを得て、父の住んでいたあばら家からの再出発を決意する。槇の会は、房総発文学の一層の興隆を目指し新人賞を創設。『恭平の家』はその第一回受賞作。
 余命宣告――『去り際』(水白京/文芸復興43号)。告知された母は《何か言葉を発するでもなく、うろたえるでもなかった………まったくもって平常で、動揺や悲しみを隠すといったものではない》。母は堀江朋子さん、作者は堀江さんの娘さんで、小説仕立てで母の最後を綴った。不幸が重なった。堀江さんの後を継いで文芸復興代表となった丸山修身さんも昨年九月急逝。同誌は、昨年発足の全国同人雑誌協会が設けた第一回全国同人雑誌賞の特別賞を受賞、授賞式が行なわれる矢先であった。新たな代表には西澤建義さんが就いた。
(風の森同人)







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