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評者◆赤井苫人
サイエンスが文化になる社会へ
未来の科学者たちへ
大隅良典/永田和宏
No.3533 ・ 2022年03月05日




■本書の著者の一人、大隅良典さんが2016年にオートファジーでノーベル医学生理学賞を受賞した際、記者会見でこう述べていた。

 私は「役に立つ」という言葉がとっても社会をだめにしていると思っています。(中略)社会が将来を見据えて、科学を一つの文化として認めてくれるような社会にならないかなあと強く願っています。

 あれから5年。日本の科学、そして基礎科学の現状は、残念なことにあまり芳しくないようだ。論文数、大学の研究資金・研究者数、博士課程学生数、いずれも先進国で最低レベルにまで急落。コスト削減のため中央研究所を閉じる大企業も増えている。その結果が如実に現れたのが新型コロナ感染症。日本のワクチン開発は遅れ、他国に頼らざるを得ない状況だ。
 そんな現状を憂う二人の科学者が日本の未来を担う科学者や、科学の世界を無縁に感じている私のような読者に、自分たちの研究生活のエピソードなどを通じて「科学」の発想や視点、面白さを紹介しているのが本書だ。
 大隅さんも、永田さんもともに基礎科学の第一線で活躍された。基礎科学とは何か? それは真理の探究そのものを目的とする科学。要は、知らなかったことを知りたがる、好奇心から出た科学とお二人は説明する。基礎科学自体は役に立つかどうか分からない。限りある資金を役に立つか分からないものに投資するより、もっと実用的な技術の蓄積である応用科学に投資するべきと考えるのは当然のこと。しかし、近年話題になったSF小説『三体』で三体人とその一派が、地球侵略の第一歩として基礎科学者たちを潰していくように、基礎科学もかなり大事だ。基礎なくして応用もないのだ。
 二人ともちょっと捻くれたところがあるのか、みんながやっている分野には手を出さない。誰も知らない未知の分野で気にいったテーマを見つけ、役に立つことはおろか、発見できるか分からないことを根気強く実験、検証する過程を楽しんでいく。二人とも奥様が自立した方なので好きなことに専念できたのかなと想像する。
 二人が紹介する科学的な発想、例えば、答えよりも問いが大切である点、「教科書」的なものを時に疑う、意見をぶつけて最適な答えを探すなどはビジネスセミナーでやっている内容に似ている。科学は意外と自分と無縁ではないようだ。
 日本政府は2001年に50年間で自然科学系のノーベル賞受賞を30人程度にする目標を掲げた。もしかしたら、過去の研究が評価されて30人くらいはいくかもしれないが、2050年以降、受賞者がまったくいなくなることも考えられる。少子超高齢化社会の日本。人も金も余裕がないからと言って「役に立たない」科学を蔑ろにすると、あとで後悔することになるかもしれない。
 本書の後半で2016年の記者会見時に語った「科学を一つの文化として認めてくれるような社会」を目指して、二人の取り組みを紹介している。大上段から「解決策」を提示するのではなく、当事者として自分のできることをする姿勢に好感を覚える。私にできることは、我が子を好奇心いっぱいの子供に育ててやることかな。







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