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評者◆殿島三紀
女をなめてんじゃないよ――監督 ルバイヤット・ホセイン『メイド・イン・バングラデシュ』
No.3540 ・ 2022年04月23日




■『ストレイ』『ベルファスト』『林檎とポラロイド』などを観た。
 『ストレイ』。2004年以降、路上動物の殺処分と捕獲が禁止されているイスタンブール。この街に生きる野良犬たちの視点から、街と人々と世界を捉えたドキュメンタリー映画である。エリザベス・ロー監督は半年間、犬たちに密着し、犬の目線と同じアングルで撮影した。本作はイスタンブールの街角で悠々と生き、シリアからの難民少年たちと共に路上で眠り、モスクから響き渡るアザーンに合わせて遠吠えする犬が主人公だ。同じ生物として共に生きているのだなぁと優しい気持ちになれる。作中で折々挿入されるギリシャ哲学者の警句。曰く「人間の生き方は不自然で偽善的だ。犬に学ぶのが良い」。
 『ベルファスト』。北アイルランドの首府ベルファストは本作の監督ケネス・ブラナーが9歳まで生まれ育った街。自伝映画だ。9歳の少年の目を通して宗教が人々の対立を生み出していく様や激動の時代にもみくちゃにされる街や人々が描き出される。監督は1960年生まれだが、彼が9歳だった1969年は北アイルランド紛争が本格化した年。少年はいままで仲良く暮らしていたご近所さんがなぜプロテスタントとカトリックというだけでいがみあうのか理解できないまま、故郷を後にする。天真爛漫な少年が時代の激動の中で少しずつ影を帯びていく……。
 『林檎とポラロイド』。ギリシャの新人監督クリストス・ニクの作品。記憶喪失を惹き起こす奇病が流行する世界を舞台に描いた映画だ。バスの中で記憶を失い、病院に運ばれた主人公は林檎の好きな物静かな男。いつまでも記憶の戻らない男に医師は新しい記憶を作り出す回復プログラムを勧める。
 未来なのか、過去なのか。不思議な空気感が漂う作品。医師のミッションに従い、それをポラロイドで記録し、アルバムに貼りつける。新しい記憶を作るための作業が徐々に男の過去を解きほぐしていく……。
 さて、今回紹介する新作映画は『メイド・イン・バングラデシュ』。監督はバングラデシュ出身のルバイヤット・ホセイン。バングラデシュの縫製産業の実態を描いたドキュメンタリーかと思いきや、劣悪な労働環境で働く主人公が同僚や反対する夫を説得し、労働法を学びながら、組合結成に立ち上がった実話に基づくストーリー映画。これがまた痛快で感動的なヒューマンストーリーだった。
 GAPのTシャツもユニクロのジーンズもバングラデシュで作られている。首都ダッカでは18歳から30歳までの若い女性たちがユニクロのジーンズ3~4本分の月給で週6日、1日10時間以上働いているのだ。このことが広く知られるようになったのは2013年4月に起きたラナ・プラザビルの崩落事故。ダッカの北西にあるこのビルが4台の大型発電機と数千台のミシンの振動で崩れ落ち、死者1127人、負傷者2500人以上を出す大惨事となった。この事故によって、バングラデシュが「世界の縫製工場」の役割を担い、世界的に知られるファストファッションの多くはバングラデシュの低賃金と劣悪な労働環境下で製造されている事実が明るみに出たのである。
 監督は、10代半ばから労働運動に関わってきた女性をモデルに、彼女の体験を基に3年以上の調査を経て脚本を書き、本作を完成させた。それだけに映画の殆どは彼女の経験した事実に基づいている。多国籍企業の白人男性がただでさえ安い仕入値を更に値切り、工場幹部の男性が揉み手をしながら、それを受け入れるシーン。働き手はいくらでもいるというところか。その上、労務省は工場と結託し、主人公がやっとの思いで提出した組合結成の署名用紙を握りつぶそうとするし、もう駄目か! と何度も思わせながら機転と度胸で困難を乗り切っていく主人公。実に痛快な映画だった。女をなめんなよ! だ。
(フリーライター)







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