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評者◆越田秀男
カフカ『城』はグローバル・デジタル・ファシズムを予見(「カプリチオ」)――アルル人の死者祈念儀礼(「てくる」)/バチュラー八重子歌集(「現代短歌」)
No.3545 ・ 2022年06月04日




■卐=Z、すなわち非卐化=非Z化。彼らは彼らの鏡像を虐殺している。カフカ『流刑地』の処刑機械で自らの黒白をつけるべし。
 草原克芳さんは、「カプリチオ」52号でカフカの『城』を『永遠の測量技師Kは、何を「測量」しているのか』と題し論述。《カフカ的世界は、荒涼とした「序列と力関係」の続く迷宮》であり、測量師Kは城の《位階と権力の遠近感を測定》し得ても《中心に到達することはできない》。ドン・キホーテの「風車」は「城」となり、現代の「コンピュータ・アルゴリズム」に変貌し、グローバル・デジタル・ファシズムを予見。カフカ最晩年、未完の『城』、冒頭の「Kは永いあいだ、国道と村を結ぶ木橋の上に立って、何も見えないかなたの空をあおぎ見ていた」に対し、《世界と自己という永遠の謎を前にして、不安なまなざしをした少年のように佇む……最後の自画像》と結んだ。
 「てくる」では30号の節目に「声」をテーマに作品募集、その中で、さあらりこさんが『紡ぎだされる声』と題し、アルル人のミレル・アグワラ(死者祈念儀礼)を小説形式で紹介している。太鼓のリズムにアグワラ(木の横笛)の“泣く歌”――その音は“声”であり、「太鼓からアグワラへ、アグワラから人へ」伝わり、人々の歌詞となる。アルル人はウガンダ共和国とコンゴ民主共和国に分断された民族で、ウガンダ側でミレル・アグワラが行われたのは一九八六年が最後とされる。その復活の試みなのであった。詳細は『死者祈念儀礼をとおして生起する共同性』(田原範子・四天王寺大学)、Web上に公開。
 《亡びゆき一人となるもウタリ子よこころ落とさで生きて戦へ》――「現代短歌」90号では「アイヌと短歌」を特集、バチュラー八重子歌集『若き同族に』全編を誌上復刻、天草季紅さんが『歴史の闇をこえて生きつづける民族のうた』と題し解説。三人(新村出、佐佐木信綱、金田一京助)の碩学の「序」も載せ、天草さんは、いずれも日本の和歌に連ねて評価するに留まり、特に金田一はアイヌ語の〈モシリ〉を「大八州国」、〈カムイ〉を「天皇陛下」と訳注するなど、これは検閲逃れの術? と辛辣。八重子の歌の韻律分析を行い、ユーカラクル(伝承者)達の《磨き上げてきた技を受け継ぎ》生き継ぐための戦いの歌であると結論した。
 「詩遊」72号に載せた永嶺幸子さんの詩『カンプーの人』。《ウンケー(旧盆の入り)の午後/ふりそそぐ陽ざしの中/日傘をさして故郷の丘に立つ/産土の感触が過去の扉をひらく》――母が商いにでかけると子等を見守るのは曾祖母。白髪のカンプー(沖縄女性の髪型)に銀のジーファー(簪)、紺地の琉球絣、ハジチ(入れ墨)の手が幼い手をぎゅっとにぎっていた。オオジョロウグモの観察記も添えられている。台風もなんのその、吹き飛ばされても巣を張り直す元気蜘蛛姫。
 「月光」71号では「マスク」を特集。この中で岡部隆志さんが角川令和四年版『短歌年鑑』から歌を選びコメント。《人類は「パンツをはいたサル」であり「マスクをつけたサル」ともなった》(香川ヒサ)――栗本慎一郎さん今80歳。〈マスク〉が〈パンツ〉レベルに? 〈スマホ〉ならもうかなりが穿いてる。《ヒトわれら到底出来ぬ改革を推し進めてるウイルス達が》(奥村晃作)――世界規模の蔓延はグローバル資本主義社会に起因。《布マスク縫う日が我にも訪れてお寿司の柄を子は喜べり》(俵万智)――ママの手作りマスク。
 指は口ほどにモノを言う?――『指の音』(出町子/詩と眞實873号)。〈涼子〉の母は難聴で、父と三人、家族の会話は手話中心。手話は翻訳的、ワンクッション効果で家族関係良好。でも大学に進学すると違う風が欲しい、家を出て学生寮へ。寮の友とその彼氏、三人でカラオケ三昧。なぜか友は彼と別れ、二人カラオケに。ある日、彼が約束したのに来ず、落胆? いやこれ幸い、一人カラオケ。疲れて近くの公園で休んでいると、自分の手指が勝手に動き出し、何かを喋り出した!
 極楽浄土はあの世、桃源郷は浮世、どこに浮いてる? チベットのカラカル山の麓――『楽園の人』(武田久子/SCRAMBLE42号)。〈私〉はスマホ誤操作、大学時代の教授に繋がってしまう。二人はかつて、ある冒険家を支援する会の仲。生き様への共感……冒険家は北極の氷の割れ目に嵌って果てた。電話で先生は、眼を悪くして施設に入った、来てみないか、と誘う。施設の名は“シャングリ・ラ”。入所者のあらゆる希望をメニュー化し提供する。ただ、世間とは隔離され様々な挑戦も“ごっこ”。束縛はないが自ずと何らかの役割にはめ込まれる。先生は悟りの境地、世捨て人に。
 子供の頃の記憶は童話のごとし、怪獣? 英雄? 変なおじさん――『銀蔵の家』(妹尾多津子/あらら13号)。〈由紀子〉の住む長屋の大家、銀蔵は大地主。40代の無骨者で近所のかみさん連には嫌われ、子供達は遠巻き。美人の嫁さんが来た! 金で買った? 怒鳴り散らしてすぐ離婚。と、由紀子の弟が足繁く銀蔵の屋敷へ。由紀子も友達と潜入してみた。立ち並ぶ仏像、巨大な仁王像、修行僧の出で立ちで読経……潜入が露見! 鬼がこっちへ! やさしい顔で、饅頭食うか旨いぞ。
 「長崎くんち」は七年に一度の諏訪神社の祭礼。36人の益荒男が担ぐ太鼓山は、なんと一トンもの重量――『モッテコーイ』(後藤克之/絵合わせ1号)。〈ぼく〉は太鼓山担ぎに憧れていた。父はそのエキスパート。しかしその役に選ばれた時には萎えていた。担ぐことの過酷さと、生まれ育った町からの脱出願望。実は、豪雨、川の氾濫で母の溺死、父の新たな女性……しかし拒否できずにいるうちに、担ぐことが身につき始める。と、父が身体を故障。引退を契機に、シガラミをこそ引き受ける、と決意。〈ぼく〉の心の成長を〈ぼく〉の内側から自然に描写。
 なお、同人誌名「絵合わせ」は庄野潤三の同名小説にちなんだもの。
(風の森同人)







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