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評者◆凪一木
その147 動けよ。
No.3548 ・ 2022年06月25日




■映画の撮影現場、製作環境、オーディションシステム、学校や講座での師弟関係、深夜労働や残業代に関する労働基準法違反、またギャラの不払い、遅延、契約不備なども含めてのセクハラ・パワハラと実際に表に出ない犯罪が、#metooによって少しずつ明らかになり、公の問題化してきている。
 私が見逃がせないのは、自分のビル管現場で起きている問題と通底するからだ。私がパワハラを告発したら、当人(八時半の男)はクビにもならず、結果的に飛ばされてもおらず居座っている。抵抗しているのは私一人なわけで、私がいなくなると、現場は滅茶苦茶な事態に陥っている。何事もなかったかのように、告発した私だけが馬鹿を見ている印象だ。八時半の男は、未だに、毎日現場にやってきて、パワハラを繰り返している。八時半の役職はいったい何なのだ。
 私はもうそこにはいないから「関係ない」という問題ではない。八時半は、もはや何の意味をもなさなくなった八時半出勤を元に戻すこともなく、無駄に三〇分残業を無給でさせている。元々下請けの人間に机はなかったが、四つ使用を許されていた。今は、二つのみで、そのうちの一つもまた、元請けが使ってもいるという。私のあと残ったメンバーは、ユニオンに加盟もしていないし、闘う気もない。だからと言って、放置すべき問題ではないだろう。しかも笑ってしまうことに、私が消えてから、八時半の代りにやってきたはずの二人の元請け会社の所長と副所長が、揃って現場を出たいと申し出ている。その理由を下請けのT工業に向けているようだが、相変わらず現場に来る八時半が原因であることは明白だ。その所長と副所長(女性)に対してもパワハラそしてセクハラも働いている。というのは、私が何度も目撃しているからだ。だがその女性に質問してみるも、むしろ取り込まれたかのように、「あの人がいて助かってます」といった返答だ。ウソだろう。
 子どもが学校でいじめられているという報告を親に出来ないように、パワハラ・セクハラもまた、被害を受けている自分を認めたくない。フェラーリは、「八時半も少し可愛いところがある」などと、自分にまだ余裕があるかのような態度を見せる。それもまた、ただ暴力に屈していると思いたくないし、そういう自分の姿を認めたくないからだ。暴力に従って生きているなんてカッコ悪いことぐらい知っている。一方のパワハラする側も、「可愛い面」を見せたりしながら取り込もうとする。
 牛丼の吉野家常務が「生娘をシャブ漬け」発言で解任された。四月二三日の「情報7days」で、三谷幸喜はこう提言する。「品が無いなと思いながら愛想笑いをしていた人も、これからは勇気をもって顔をしかめるように」。四月一九日「NEWS ZERO」での落合陽一のコメントはこうだ。「見てるあなたの会社にもいるでしょう。対策をやるなら採用段階で外すしかないんじゃないですか」。ビル管、映画界、そして外食もそうなのか。
 榊英雄問題は、同監督の公開映画の脚本を書いた港岳彦の内部告発によって動き出したことから、月刊『シナリオ』は逸早く座談会を開いている。だが、今これを書いている四月二五日現在、その他の映画雑誌、映画関係誌は、無視状態だ。
 最も根幹をなすと思われる『キネマ旬報』は、まるで他人ごとなのか。一報があって
騒がれた最初の渦中の四月下旬号は、特集も、問題視する記事もなく、切通理作一人が孤軍奮闘している状態だ。ワールドリポートという事実報道の日本版に、三番目として「榊英雄氏の監督作「蜜月」公開中止」、四番目に「映画監督有志6名が声明を発表」と、対岸の火事のように記録しているのみだ。
 次の五月上旬・下旬合併号は、園子温監督をめぐり映画界そのものの体質だ、腐れ切った膿を出せといった論調がさらに高まっている時期であった。これも全く意に介さぬが如くに、同じように、特集も提言も、発言すらなく、無視した形になっている。何か大きなことを準備している最中なのであろうか。六人の有志を登場させるべきではないのか。それとも、八時半に屈していることを認めたがらないフェラーリのように、「榊さんもなあ。園さんもなあ」などと、苦い笑顔で許容しているのか。
 最終ページ手前には、「今号の執筆紹介」という執筆者のコメント欄がある。四月下旬号で性強要問題に触れたのは、五九人のうち、一人だけである。あとの五八人は、自分がどこで何をしたという宣伝や、取り留めのない日常報告、関心事を含めた身辺雑記である。書いた一人は、図書新聞に連載中の睡蓮みどりである。では、翌月はどうか。六一人中、今度は睡蓮みどりに加えて、一人増え二人だ。斉藤環だ。
 〈榊英雄監督、園子温監督の性加害報道に失望を禁じ得ません。彼らの作品はもう観ませんが、邦画はこのさい膿を出し切って欲しい。〉
 私も映画雑誌に失望を禁じ得ない。前号に続いての睡蓮みどりは必死だ。
 〈映画界に起っている#Metooの声に耳を傾けてください。キネマ旬報さん、よろしくお願いします!〉
 秋本鉄次の連載「カラダが目当て」というタイトルも、そろそろ止めた方がよいのではないか。雑誌にも時代にもそぐわないし、当人自体も未だに昭和のエロ目線のままだとしたら、そういう趣味の人たち向けの場所で書いてほしい。
 雑誌『キネマ旬報』の表紙は、四月下旬号「オードリー・ヘップバーン」、次の五月上・下旬合併号「シン・ウルトラマン」だ。見事に、「現実から過去へ」「二次元へ、特撮へ」と逃げ込んでいるかのようだ。逃げ込みたいのは分かる。
 暗い現実から目を逸らしたい。生々しい現実の辛さなんて忘れたいから映画館に足を運んでいるのだというのは映画を観る一つの動機だ。楽しいことばかりで満たされたリア充など、映画館には昔から来ない。私もそうだが、スクリーンのなかの主人公は、錯覚であれ、私同様の逸れ者であり、アウトサイダーであり、折り合いのつかない人生を何とか生き延びる、現実にはほとんど有り得ないような人生を全うしてくれる。そういう娯楽装置としても映画はずっと機能してきた。睡蓮みどりを見殺しにするな。声なき声を消すな。
 俳優の鈴木砂羽が、声を発した。これについては次号に書く。
 私の消えた現場では、下請けの我が社の責任者が降りて、不在状態だ。一人を除いて、皆現場異動願を出している。一人とは誰か。あの認知症気味のグレイだ。活き活きとしているのはお前かよ。ああ、ビル管。
 私はというと、フェラーリや設備の三島に会いに、夜勤明けの朝、元の現場まで歩く日々である。(建築物管理)







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