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評者◆凪一木
その152 休ませろよ! ニッポンチャチャチャ
No.3553 ・ 2022年07月30日




■映画界は、セクハラもさることながら、ちゃんと休ませているのか?
 「今回、伺った方は実際に被害にあったのは一〇年ほど前のことですが、その時のことを昨日のことのように鮮明に覚えていらっしゃるんですね。(中略)そしてその方が強く訴えていたことの一つとして、“日本の映画界には俳優を守るルールがないんだ”と」(「ニュース23」TBSテレビ、四月一九日、山本恵里伽キャスター)
 〈残念ながら今の映画業界は、若者が働いてみたいと夢見る世界でもなければ、私たちが胸を張り就職を勧めることができる場所でもありません。〉(諏訪敦彦ほか「映画監督有志の会」の提言書より)
 〈表現の現場は、多くのフリーランスが働いているのが特徴的だ。(中略)書面を通じて契約する意識が薄いことなどから、口約束、薄謝、不当な値切り、サービス残業や超過労働なども蔓延している。人脈やつながりを重視し、さらに書類契約を軽視するという業界の悪慣習は、さまざまなハラスメントの温床にもなっている。〉(荻上チキ「ハラスメント実態調査」より)
 そこには、映画界の体質がパワハラ、セクハラを助長させているという自己分析がある。だがそれは、映画の現場などに特徴的に現れただけで、日本という国自体のもつ体質ではないのか。
 「口を動かしてる暇があったら手を動かせ」「休んでる暇があったら他の仕事を見つけろ」。何でも良いから身体を動かすように仕向けようとし、動いていなければ、雇い主は金を払いたくない。だから、見た目の「してる振り」だけは上手くなり、実質は裏でサボるという形が成立。むしろ日本の場合は、建前だけはがんじがらめの良いことずくめで、結果として、他国よりも効率の悪い、時間の割に成果のない仕事をしているのではないか。
 当然の権利である有給休暇を取らせまいとする同調圧力、休まないことを美徳とする体質、身体や精神を壊してまでも頑張る姿を称賛し、一方で楽しんで作業したり、喜びを見つけて仕事する姿を悪として、阻害し、押さえ付けようとする。
 初めに入ったビル管理会社での話である。まずは、その年の一一月九日の一件から書く。一七時半に出勤すると、いきなり怒鳴られた。「(その日の日勤を代わったことについて)俺は何も知らされていないぞ。バカにするにも程がある。一緒にやっていく人間として信頼関係を築く気がないのだから、今後一切の仕事を教えない。そういう人間だから、トラブルを起こして辞めるのも時間の問題だろう。私の期待に反して続けていくのかもしれないけど、仕事は一切教えない」。私は、一一月九日には試験があるので、日曜日ではあるけれど、もし出勤の場合は休ませてくれということを九月の面接の時点からしつこく会社には言っていた。派遣先の会社の上司にもそれは一〇月一七日の時点
で断っている。それ以前の一五日には、直属の同じ会社の上司である青森のツッパリ男(係長)に「本社」へ言うように託し、また一六日にも心配なので電話してイケメンの通称「お調子者」(課長)に、現場の室長(こいつこそが、今は亡くなった虫男である)に言ってくれと言付けしていた。
 本来私は、その日が出勤という意識などない。しかし、そのやり取りの最中に段階的に出勤日が出て(発表されたものではない)、九日が私の勤務日となっていたので、一〇日の日勤者と代わってもらい、私は、試験が終わってその日の一七時半に翌日の一七時半まで二四時間勤務に入ることになったのだ。そこでの「喫茶M」(のちにブログ男となる人物)のこのセリフである。
 そして次の出勤日に恫喝されたのは、こんなことだ。一八時三〇分に通常はボイラーの一号機を運転開始する。だがその日は、一七時半に帰る新人に教える都合上で、一七時に運転の着火をした。私は一七時運転開始と日報に記入していた。これを見つけた「喫茶M」はいつも通りに一八時半に書き変えろと指示した。そう言われたのが二〇時ころだ。私は、別に刃向かうつもりもなく、その他の文句も言われていたので、その他の文句に対する訂正をしたり仕事をし直したりしているうちに、二二時に喫茶Mが日報を見た。
 「なぜ直していない。言われたことをやっていないのはなぜだ。お前は馬鹿か」。いよいよお説教は始まる。最後には、「人間には向き不向き、得手不得手があるから、どんな馬鹿でも、何かしら仕事は見つかるだろう」と捨て台詞を吐き、その日は終わった。私のやった「ミスらしきミス」と言えば、せいぜい消しゴムで消して一八時三〇分と書き直すのが遅れたというだけのことだ。これによって人格全部に近い否定のされ方をするわけだ。どういう頭の構造をしているのか。
 だが、この話をしても、多くのビル管は驚きもしない。よくあることなのだ。身体に暴力を加えてくる反社会組織がやっているのではないかと思われるブラック現場もあるのだ。
 ビル管の独特の業態、ビルのオーナー、元請け、下請けという構造的な問題、雇用関係の仕組み自体がパワハラを産んでいる。元請けがオーナーの完全子会社の場合には、さらにやりにくい。問題とするにしても、下請けが、ただ切られる(要らないと言われて他社に仕事を振られる)だけで、元請け自体がオーナーから一緒に切られることはない。業務にかこつけて正当性のない暴力的な言辞をするのがパワハラだと思うが、一〇人ぐらいの現場で上の五人を元請けが握って、下の五人を下請けの数社から派遣させるという複雑なこの業態の中に、助長する体制が既に存在しているのではないか。
 下請けの人間には机もなく、居場所自体がない。そこで机に座っている元請けの人間に意識として馬鹿にする体質が芽生えないという方がおかしいだろう。狭い空間で、少ない人数の中で、机問題を提起したら上はパワハラをやりずらい一面が多少は出てきても、こちらが訴えた以上は、加害者と被害者が一緒の職場にいる状況になる。よい関係にはならない。基本グレーゾーンで白黒つけがたい面もある。仕事のできない人間が、或いは大した仕事でもない現場では、尤もらしく振る舞うには、それっぽい演出のために、新人に仕事を教えず分からないままにしておくとか、実力が付く前に辞めてもらって入れ替えをするなどの悪知恵を働かせることは良くあることだ。
 そして、またしても、今の新しい現場で、一ヶ月以上先の有給休暇届けを出すと、怒鳴られた。ここもまた、これかよ。
 いつまで経っても、どこに行っても、労働者を休ませたくないのか。この国は。
(建築物管理)







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