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評者◆秋竜山
筒井康隆先生、アリガトウ、の巻
No.3561 ・ 2022年10月08日




■私が、東京へ出てマンガ家になったばかりのころ、家では父や母が心配でやりきれないと、手紙を書いては、つづけてよこした。私は、心配ないと、そのつど書いたものだが、それでも心配していた。そんな時だった。筒井康隆先生が、ある週刊誌で、だいじょうぶだと書いてくれた。父や母は、そんな大先生の作家がいうくらいなら、心配あるまいと、ほっとしたのだった。もし、筒井先生のひとことが週刊誌に書かれていなかったら、たぶんいなかの伊東市へつれもどされたはずである。それをすくってくれたのが、筒井先生であった。私はうれしくて、ふとんの中で大泣きしたのであった。あれから、ン十年たった。今でもマンガ家をつづけている。ほんとうにアリガトウございました。
 筒井康隆編『70年代日本SFベスト集成5――1975年度版』(ちくま文庫、本体一二〇〇円)では、
 〈「70年代日本SFベスト集成」シリーズは1975年度版をもって終わる。力衰えぬ巨匠から、有力新人の登場。ジャンルの浸透と拡散。新しい挑戦。日本SFのピークのひとつとして間違いないこの時期の傑作を、たしかな鑑賞眼と斬新な視点で選んだのは、自身、最前線の作家であった筒井康隆である。これらの作品群を外して日本文学史を書くことはできない。(解説・豊田有恒)〉(本書より)
 それにしても、あの時、筒井先生の雑誌でのおうえんがなかったら、私は、マンガ家どころか、いなかへ帰って家のあとをついで漁師になっていただろう。それを、思うとアリガタくて大泣きをしてしまうのである。ときおり、思い出したように砂浜に立って、釣りなどしていると、妻が「あなた、釣ってちょうだいよ、ゆうはんのおかずにするんだから」と、さいそくする。「バカ、オレに釣れるわけないだろう、そんなに魚がほしかったら、お前が釣れ」と、いうと、「あなたらしいわね」と、大笑いされたのである。そして、妻は「ヨシ、あたしもいっしょに釣りしてみるわ」と、いって私とならんで魚釣りをはじめたのであった。私が「やめろ!!」と叫ぶと同時、妻が魚を一ぴき釣り上げたのだった。その時、妻のハナがグーンとのびたのを、私は見た。「じょうだんじゃないぜ、まったく」、ひどい話じゃ、ありませんか。まいった、まいった。







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