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評者◆添田馨
改憲という亡霊――亡国に至るを知らざれば即ち亡国④
No.3565 ・ 2022年11月05日




■「国の交戦権は、これを認めない」(九条二項)――日本国憲法条文のこの一行の非常に重たい意味が、比類ない痛切さで迫ってくるようだ。国にひとたび交戦権を認めたら一体どういうことになるか。その最劣悪な現実を、私たちはウクライナ戦争への強制動員によって昨日までの平穏な日常から引きはがされ、激しい戦闘の最前線に立たされることになった現在のロシア軍兵士たちの姿のなかに、目の当たりにしている。
 独裁的権力者が勝手に始めた戦争に、彼らはある日突然、みずからの命を差し出すことを強制される。断れば重罪であり、十分な訓練も装備もなく、みずからの意に反して戦地に送り込まれ、行き着いた最前線では西側ハイテク兵器による精密誘導攻撃の嵐のような洗礼が待っている。自発的に敵軍へ投降しても帰国すれば懲役刑が課され、それ以前に、逃亡した者は味方の部隊によりその場で射殺されることもあるのだ。不条理きわまるこのような事態が現実に起こっている。
 国家が交戦権を持っていなければ、こういう不遇な事態は起こりようがない。なぜなら、九条二項のこの一文は、国家に対外的な戦争政策を禁じているだけでなく、それにともなう国内での組織的徴兵や兵役義務、強制動員等をも一括して禁じていると解釈できるからだ。このような憲法による歯止めは、普段とくに意識されなくとも、何にもまして大切な私たちの日々の暮らしを守る生命線であることに疑問はない。
 さっそく反論が聞こえてくる。日本にはプーチンのような独裁者はいないし、ロシアと違って民主主義も根づいている。いきなり徴兵や動員なんか起こるはずがないと。だが、本当にそうか。
 わが国にも独裁的体質の政治家はいるし、極右的な軍国主義者もいる。扇情的な軍事ブロガーだっていくらも存在する。ただ、わが国にあって現在のロシアにないもの、それが「非戦条項」という憲法上の歯止めなのだ。この意味をよくよく噛みしめる必要がある。
(続く)







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